代償金が払えないとき、実家を手放すしかないのか──5つの選択肢を費用と難易度で比べる

実家を残したいのに代償金が用意できない——この行き詰まりは、家を手放す理由になりません。分割払い・一部換価・代償金ローン・代物弁済・共有維持の5つを費用と難易度で比較し、その前提となる評価額の確かめ方を不動産鑑定士が整理します。

著者:吉田 健人·読了 約15
代償金が払えないとき、実家を手放すしかないのか──5つの選択肢を費用と難易度で比べる

親が遺した実家に、今も自分が住んでいる。ところが遺産分割の話し合いが進むと、きょうだいから「なら代償金を払ってほしい」と言われ、金額を聞いて言葉に詰まる——ご相談でもっとも多く伺う行き詰まりの一つです。

代償分割(相続人の一人が不動産を取得し、他の相続人に金銭を支払う分け方)は、不動産を残したまま公平を保てる優れた方法です。ただし、取得する側にまとまった現金があることが暗黙の前提です。預貯金が少なく不動産の割合が大きい相続ではこの前提が崩れ、「払えないなら売るしかない」という結論に話し合いが急に傾きます。

結論から申し上げます。**代償金が用意できないことは、家を手放す理由に直結しません。**支払いの時期をずらす、外部から資金を入れる、現物で払う、共有で持つ、と方向の違う選択肢が並んでいます。そして、そのどれを選ぶにしても出発点は同じです。「そもそもその代償金の額は正しいのか」を確かめること。5つの選択肢を、費用と難易度の観点から整理します。

その代償金の額は、本当に正しいのか

代償金は評価額から機械的に決まる

代償金の計算はとても単純です。不動産の評価額を含めた遺産の総額を出し、各相続人の取り分を求め、不動産を取得する人が自分の取り分を超えて受け取った分を金銭で返す。それだけです。

だからこそ、入口に置く評価額が動けば代償金もそのまま動きます。相続人が2人で法定相続分が各2分の1なら、評価額が1,000万円下がれば代償金は500万円下がります(代償金の金額は評価額で決まる)。資金調達の相談に入る前に、まず確かめるべきはこの入口です。

「高いほうの数字」で合意していないか

代償金を受け取る側は、当然ながら評価額が高いほうが有利です。そのため、話し合いの場には高めの数字が持ち込まれやすくなります。よく見かけるのが、不動産会社の無料査定書です。

無料査定は媒介契約の獲得を目的とした営業資料であり、強気の数字が示されることがあります。同じ物件でも会社によって数百万円から1,000万円以上の幅が出ることは珍しくなく、査定額は成約価格の保証ではありません(査定と鑑定の違い)。

逆に、取得する側の「路線価で計算すれば十分だ」という主張が実勢との乖離が大きい地域で通れば、今度は受け取る側が損をします。どちらに転んでも、根拠のない数字で決めた代償金は後に不信を残します。

「払えない」の中身を分解する

もう一つ確かめていただきたいのは、「払えない」には性質のまったく違う二つが混ざっているという点です。

一つは金額の問題です。生涯の可処分所得に照らして、その額はどうやっても負担しきれない。この場合は評価の見直しで金額そのものを動かすか、後述する共有・換価の方向を検討することになります。

もう一つは時期の問題です。総額としては負担できるが、協議が成立する日に一括で現金を用意できない。行き詰まっているご相談の多くはこちらで、この場合は選択肢がぐっと広がります。まずご自身がどちらなのかを見極めることが、遠回りに見えて最短の道です。

選択肢1・2──支払いの「時期」をずらす

分割払い(延払い)にする

もっとも費用がかからず、実行のハードルが低い方法です。遺産分割協議は相続人全員の合意で成立しますから、支払方法を分割にすることも当事者が合意すれば可能です(民法第907条第1項)。

ただし受け取る側は回収不能のリスクを負います。「毎年少しずつ払う」とだけ決めると、後年の未払いから紛争が再燃します。支払総額、各回の金額と支払期日、最終期限、遅延損害金、期限の利益喪失条項(一定回数以上滞納したときに残額を一括請求できる旨)を協議書に明記してください。抵当権の設定や強制執行認諾文言を付した公正証書といった履行確保の手段もあります。手続きの選択は弁護士・司法書士にご確認ください。

遺産の一部を売って原資にする(一部換価)

遺産が実家だけでないなら、実家以外の財産——使わない別の土地、遠方の農地、有価証券など——を売却して原資に充てる方法があります。実家を守りながら、遺産の中で資金を作れるのが利点です。

注意点は二つ。第一に、相続登記を済ませ買主を探し決済まで進めるには、物件によって数か月から1年近くを要します。第二に、売却する財産についても価格の目安が要ります。売れにくい土地を安く手放し、手元に残る額が想定より少なかったという事態を避けるためです(換価分割の進め方)。なお譲渡所得の課税関係は税理士にご確認ください。

選択肢3・4──外部から資金を入れる、現物で払う

代償金ローン・不動産担保ローンを使う

金融機関から借り入れて代償金を支払う方法です。「遺産分割ローン」「代償分割資金」といった名称で、相続に伴う資金需要に対応した商品を扱う金融機関があります。相続する不動産そのものを担保に入れられるため、無担保のフリーローンより金利は低く、金額も大きく組めます。

一方で、審査に通る必要があります。安定した収入、年齢と返済期間の関係、担保となる不動産の担保価値が問われ、借入可能額は評価額に対して一定割合にとどまるのが一般的です。ここでも、その不動産がいくらと評価されるかが結果を左右します。

数値で見ます。代償金1,800万円を金利年3.0%・返済期間20年・元利均等で借り入れた場合、月々の返済はおおむね9万9,000円台、総返済額は約2,400万円で、利息だけで約600万円の負担です。この負担を引き受けてでも住み続ける価値があるのかを、家賃相当額と比べて判断してください。

現物で払う(代物弁済)

現金の代わりに、自分がもともと所有している不動産などを渡して代償に充てる方法です(民法第482条)。現金を用意せずに済むため、一見すると魅力的に映ります。

ただし税務上の注意点が大きい方法です。金銭債務を弁済するために資産を移転した場合、渡した側はその資産を譲渡したものとして取り扱われ、譲渡所得の課税が生じ得ます。「現金が動いていないのに税金がかかる」という、もっとも誤解されやすい場面です。渡す資産の含み益が大きいときは、税負担が代償金の圧縮効果を上回ることもあります。実行の前に必ず税理士にご確認ください。

加えて、渡す資産についても評価が必要です。何をいくらの価値として代償に充てるのかで合意できなければ、争点が一つ増えるだけです。

選択肢5──共有のまま持つ、そして、なぜ最後に置くのか

共有は「決めない」という決定である

代償金も用意できず売却にも踏み切れない場合、不動産を相続人の共有名義にして先に進める選択があります。手続きは簡単で費用もかからず、登記上は各人の持分が記載されて形式的には公平です。

しかし私たちは、この選択を積極的にはおすすめしていません。共有は問題を解決したのではなく、先送りしたにすぎないからです。共有物の売却や大規模な改築には共有者全員の同意が必要で、一人でも反対すれば動きません。持分だけを第三者に売ることは法律上可能ですが、実際には市場価格を大きく下回る水準でしか買い手がつかず、共有関係に見知らぬ第三者が加わる事態を招きます(共有持分だけを売ることはできるのか)。

時間が経つほど選択肢は減る

厄介なのは、時間の経過が状況を悪化させることです。共有者の一人が亡くなれば持分はさらに複数の相続人に分かれ、二次相続、三次相続と重なれば全員の同意を取り付けること自体が困難になります。

制度面でも不利益が及びます。相続開始から10年を経過した後の遺産分割は、原則として具体的相続分(特別受益や寄与分を反映した取り分)ではなく法定相続分によることとされました(民法第904条の3。令和5年4月1日施行)。介護に尽くした、生前に多額の援助を受けていた、といった事情を主張できなくなるということです。相続登記も令和6年4月1日から義務化されています(不動産登記法第76条の2)。共有の性質は共有と遺産分割もご参照ください。

5つの選択肢を費用と難易度で比べる

一覧で整理する

ここまでの5つを、費用の重さと実行の難易度で並べます。

選択肢費用の重さ実行の難易度・要件
分割払い(延払い)軽い(合意書の作成費用のみ)相手方の同意と履行確保の設計が必須
一部換価(他の遺産を売る)中(仲介手数料・譲渡課税)売却できる財産があること、数か月の時間
代償金ローン重い(利息負担が数百万円規模)収入・年齢・担保評価による審査
代物弁済(現物で払う)中〜重(譲渡課税の可能性)渡す資産の評価で再度の合意が必要
共有のまま維持ほぼ無し将来の紛争リスクと10年の期間制限

費用が軽い順に並べれば、共有・分割払い・一部換価・代物弁済・ローンの順です。しかし将来のリスクまで含めると順序は逆転します。もっとも安く見える共有が、長い目ではもっとも高くつきやすい選択肢です。

想定されるケースで確かめる

次の状況を想定します。実在の事案ではありません。相続人は兄と弟の2人、法定相続分は各2分の1。遺産は、兄が住み続けている実家と預貯金400万円です。

実家の評価額を4,000万円とする資料で協議した場合、遺産総額は4,400万円、各人の取り分は2,200万円です。兄が実家を取得し預貯金400万円を弟が受け取ると、弟はなお1,800万円不足し、代償金は1,800万円となります。兄は会社員で、手元にその現金はありません。

ここで評価を確かめたところ、この実家が前面道路の幅員の制約と不整形な形状を抱えており、市場で成立する価格は3,200万円と判定されたとします。遺産総額は3,600万円、各人の取り分は1,800万円で、代償金は1,400万円。評価額の800万円の差が、代償金の400万円の差になりました。

この1,400万円の扱いを考えます。全額を金利年3.0%・20年で借りれば月々約7万8,000円。半額の700万円を借り、残る700万円を毎年100万円ずつ7年で支払う組み合わせなら、月々約4万円と年100万円の分割払いです。「一括で1,800万円」という最初の壁とは、別の問題に見えてくるはずです。

組み合わせてよい

見落とされがちですが、5つの選択肢は排他的ではありません。一部換価で作った資金を頭金に充て、不足分をローンで賄い、残りを3年の分割払いにする——こうした組み合わせは協議で自由に設計できます。「どれか一つを選ばなければならない」という思い込みが、話し合いを硬直させています。

審判になれば「支払能力」が正面から問われる

家事事件手続法第195条の要件

話し合いがまとまらず審判に進んだ場合はどうなるでしょうか。家庭裁判所は、特別の事情があると認めるときに、相続人の一人に他の相続人への債務を負担させる方法で分割することができます(家事事件手続法第195条)。

実務上、この「特別の事情」の判断要素として、遺産が細分化に適さないこと、代償金による分割について相続人間で大きな対立がないこと、評価額についておおむね意見が一致していること、そして取得する相続人に代償債務の支払能力があることが挙げられています。

支払能力が示せなければ、換価分割に向かう

つまり審判の場では、「払えないが家は欲しい」という主張は通りにくいのが実際です。支払能力を裏付ける資料を提出できなければ、裁判所は代償分割を選択できず、不動産を売却して代金を分ける換価分割の方向に進みます。家を残したいのであれば、資金の裏付けを自分の側で用意して臨む必要があります。

もう一点、要件に「評価額についておおむね意見が一致していること」が入っている点に注目してください。評価が真っ向から割れたままでは、代償分割という結論そのものが遠のきます。中立の立場で根拠を示した評価は、資金調達の前提であると同時に、代償分割を成立させる条件でもあるのです(遺産分割調停の流れと不動産の価格資料)。

まとめ

代償金が用意できないという状況は、家を手放す理由にはなりません。金額を検証し、時期をずらし、外部から資金を入れ、それらを組み合わせれば道は開けます。要点を振り返ります。

  • 代償金は評価額から機械的に決まるため、資金調達を考える前に評価額の妥当性を確かめる
  • 「払えない」が金額の問題か時期の問題かを分解すると、取るべき手が変わる
  • 分割払いは費用が軽い一方、履行確保の条項を協議書に明記しなければ紛争が再燃する
  • ローンは実行力が高いが想定ケースでは20年で約600万円の利息を伴い、代物弁済は現金が動かなくても譲渡所得の課税が生じ得る
  • 共有の維持は費用こそかからないが、二次相続と10年の期間制限により将来の選択肢を狭める
  • 審判では代償分割の要件として支払能力と評価額の一致がともに問われる

住み慣れた家を残したい相続人の方、資金繰りを理由に依頼者が譲歩を迫られている弁護士・税理士の先生方にとって、最初の一手は共通しています。根拠を示せる一つの評価額を置くことです。土台の数字が定まれば、そこから先は資金計画という答えの出せる問題に変わります。

代償金の前提となる不動産の評価でお悩みの相続人の方、依頼者の遺産分割を支援される士業の先生は、初回無料相談をご利用ください。ご相談はお問い合わせから、費用の目安は料金のご案内をご覧ください。

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

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