評価の実務

相続開始時にさかのぼって評価できる理由──「価格時点」という考え方

「亡くなった時点の価格が知りたい」というご要望に、鑑定評価は応えられます。過去にさかのぼった評価を可能にする「価格時点」という概念と、相続の場面でどの時点の価格が必要になるかを解説します。

著者:吉田 健人·読了 約4
相続開始時にさかのぼって評価できる理由──「価格時点」という考え方

「父が亡くなったのは3年前ですが、その時点の価格を出せますか」。答えは「出せます」です。不動産の鑑定評価には価格時点(いつの時点の価格かを特定する基準日)という考え方があり、過去の一時点にさかのぼった評価は、鑑定評価の制度上正面から認められた仕事です。今回はこの仕組みをご紹介します。

価格時点とは何か

不動産の価格は常に動いています。同じ不動産でも、3年前と今日では価格が違って当然です。そこで鑑定評価では、「どの時点の価格を判定するのか」を最初に確定させます。これが価格時点です。不動産鑑定評価基準(国土交通省が定める鑑定評価の統一ルール)は、価格時点を現在とする評価のほか、過去の時点とする評価も明示的に認めています。

過去時点の評価では、その時点で存在した資料——当時の取引事例、公示価格、市場の状況——に基づいて価格を判定します。「今の価格から適当に割り戻す」のではなく、当時の市場を当時の資料で再現する作業です。だからこそ、後から検証に耐える評価書になります。

相続では「どの時点」が必要になるのか

相続の場面で必要になる価格時点は、実は一つではありません。

相続開始時(亡くなった日)。遺留分(一定の相続人に保障された最低限の取り分)の算定では、財産は相続開始時の価格で評価するのが原則とされています。また、各相続人の具体的な取り分を計算する前提として相続開始時の価格が参照される場面もあります。

遺産分割時(分割の話し合いをしている現在)。遺産分割の実務では、実際に分ける時点、つまり現在の価格を基準にするのが通例です。詳しくは評価の基準時で解説しています。

相続開始から年月が経ってから話し合いが始まった場合、この二つの時点の価格が両方必要になることがあります。地価が動いた地域では、二時点の差額自体が争点になることもあります。

過去時点の評価で必要になるもの

想定されるケースとして、5年前の相続開始時の評価をご依頼いただく場合、当時の建物の状態がわかる資料(写真、修繕の記録)、当時の利用状況(誰が住んでいたか、賃貸していたか)をおうかがいします。取引事例や公的な価格資料は当事務所で収集しますが、対象不動産そのものの当時の状態は、ご依頼者様の資料が手掛かりになります。資料が完全に揃わない場合でも、確認できた範囲を評価書に明示したうえで評価する方法があります。

まとめ

  • 鑑定評価には価格時点という概念があり、過去にさかのぼった評価は制度上認められている
  • 相続では、遺留分は相続開始時、遺産分割は分割時と、場面によって必要な時点が異なる
  • 過去時点の評価は当時の資料で当時の市場を再現する作業であり、後からの検証に耐える

「どの時点の価格が必要なのかわからない」という段階のご相談も歓迎します。お問い合わせからお気軽にどうぞ。

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

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