地積規模の大きな宅地の判定で迷ったとき──税理士の先生へ、通達評価と鑑定評価の使い分け
地積規模の大きな宅地の判定で迷いやすい類型と、適用しても通達評価が時価を上回りうる構造を1,500㎡の試算で示し、税理士の先生が鑑定評価を検討する判断材料を不動産鑑定士が整理します。

地積規模の大きな宅地の判定は、面積・地区区分・容積率といった形式要件で決まるはずなのに、実務では「この土地は当てはまるのか」「当てはまったとして、その評価額は時価と見合っているのか」で迷う場面が少なくありません。広い土地を含む相続税申告を扱う税理士の先生にとって、判断に時間のかかるテーマではないでしょうか。
結論から申し上げます。適用可否そのものは財産評価基本通達の要件に沿って税理士の先生が判定するものですが、適用の有無にかかわらず、通達評価額と時価が大きく離れうる土地があります。その典型は、戸建分譲のために道路や造成が必要な土地と、要件から外れるものの実態は広い住宅地として取引される土地です。こうした土地では、申告方針を固める前に、鑑定評価で時価の水準を確認しておく実益があります。
私たち鑑定士は、広い土地の時価を「分割して分譲したらいくらで売れるか」から逆算する手法(開発法)で検証します。この記事では、判定が割れやすい類型を整理したうえで、通達評価と時価の距離を試算で示し、鑑定評価という選択肢をどう検討するかの判断材料をお伝えします。
地積規模の大きな宅地とは──判定の要件を整理する
面積要件と三大都市圏
地積規模の大きな宅地の評価(財産評価基本通達20-2)は、平成30年1月1日以後の相続・遺贈・贈与から、旧広大地評価に代わって適用されています。面積要件は、三大都市圏では500㎡以上、それ以外の地域では1,000㎡以上です。
三大都市圏とは、首都圏整備法の既成市街地・近郊整備地帯、近畿圏整備法の既成都市区域・近郊整備区域、中部圏開発整備法の都市整備区域をいいます。市区町村の一部だけが該当する場合もあるため、所在地の区域指定を個別に確認する必要があります。
除外される土地
面積要件を満たしても、次の土地は対象外です。
- 市街化調整区域に所在する宅地(都市計画法34条10号・11号により宅地分譲の開発行為ができる区域を除く)
- 都市計画法の用途地域が工業専用地域に指定されている地域の宅地
- 指定容積率が400%(東京都の特別区は300%)以上の地域の宅地
- 財産評価基本通達22-2に定める大規模工場用地
路線価地域では、さらに路線価図の地区区分が「普通商業・併用住宅地区」または「普通住宅地区」であることが必要です。倍率地域は、大規模工場用地に当たらなければ地区区分の要件はありません。国税庁は判定用の「適用要件チェックシート」を公表しています。
規模格差補正率の計算式
評価額は、路線価に奥行価格補正率などの画地補正率と規模格差補正率を乗じ、地積を乗じて求めます。規模格差補正率は「(地積×B+C)÷地積×0.8」で、小数点以下第2位未満を切り捨てます。三大都市圏で地積1,000㎡以上3,000㎡未満ならB=0.90・C=75です。国税庁は、この補正率が戸建分譲に伴う潰れ地(道路などに充てられ販売できない部分)の負担、工事・整備費用、開発業者の事業収益・リスクによる減価を反映するものと説明しています。
地積規模の大きな宅地の判定が割れやすい類型
要件は形式的でも、その前提となる事実認定で結論が変わる土地があります。ここでは、ご相談で迷いが生じやすい類型を挙げます。
評価単位の取り方で面積要件が変わる
面積は「1画地の宅地」(利用の単位となっている一団の宅地)ごとに判定します。たとえば三大都市圏以外で、自宅の敷地600㎡と、隣接する貸駐車場400㎡を所有していた場合、合計すれば1,000㎡ですが、地目と利用状況から別の評価単位となれば、どちらも面積要件を満たしません。逆に、筆が分かれていても一体利用されていれば1画地として判定します。また、面積は登記簿ではなく実際の地積によります。
容積率・地区区分の境目にある土地
指定容積率の異なる2つの地域にまたがる土地は、各地域の容積率を面積で加重平均して400%(特別区は300%)以上かどうかを判定します。境界線の位置で結論が変わるため、都市計画図での確認が欠かせません。
また、路線価図の地区区分が「中小工業地区」とされていても、周辺が住宅地化しているケースがあります。通達の判定は地区区分に従うため適用はありませんが、市場ではすでに住宅用地として取引されている、という食い違いが生じます。
三大都市圏の「一部」と開発許可区域
市区町村の一部だけが三大都市圏に入る地域や、市街化調整区域のうち条例で開発許可の対象区域が定められている地域では、役所での確認が必要です。これらは面積要件(500㎡か1,000㎡か)や適用の有無を直接左右するため、判定を誤ると評価額が大きく動きます。
適用できても時価を上回ることがある──通達評価と時価の距離
規模格差補正率は「平均的な減価」を織り込んだもの
規模格差補正率は、地積に応じて機械的に決まる率です。道路の入れ方、高低差、造成費の大小といった個々の土地の開発条件は反映されません。旧広大地評価も画一的な計算でしたが、現行制度は減額幅が相対的に小さく設計されているため、開発負担が重い土地ほど、通達評価額が時価に近づき、場合によっては上回ることがあります。
想定されるケース:1,500㎡の土地で試算する
三大都市圏の普通住宅地区、路線価20万円/㎡、地積1,500㎡の土地を想定します。説明を簡単にするため、奥行価格補正などの画地補正率はすべて1.0とします。
規模格差補正率は(1,500×0.90+75)÷1,500×0.8=0.76です。
| 評価の方法 | 計算 | 評価額 |
|---|---|---|
| 地積規模の大きな宅地を適用 | 20万円×0.76×1,500㎡ | 2億2,800万円 |
| 適用しない場合 | 20万円×1,500㎡ | 3億円 |
| 時価(開発法による想定) | 下記の試算 | 約1億9,000万円 |
時価は、戸建用地に区画割りして分譲することを想定して試算します。周辺の標準的な戸建用地の時価を25万円/㎡、開発道路などの潰れ地を25%とすると、販売できる面積は1,125㎡、販売総額は約2億8,100万円です。ここから造成・道路工事費(約2,250万円)、販売費・一般管理費(約2,250万円)、開発業者の利益(約3,400万円)、事業期間に応じた割引(約1,300万円)を控除すると、約1億9,000万円になります。
この数値はあくまで仮置きですが、地積規模の大きな宅地を適用しても、通達評価額が時価を3,000万円以上上回る構造がありうることが分かります。高低差があり擁壁工事が必要な土地や、形状の関係で道路の負担が大きい土地では、この差はさらに広がります。
逆に適用できなくても時価が低い土地
前述の中小工業地区の住宅地や、指定容積率400%以上でも実際には戸建・低層住宅しか需要がない地域の広い土地は、規模格差補正率が使えない一方で、市場では分割分譲を前提とした価格でしか買い手がつきません。通達評価と時価の距離は、むしろこちらの類型のほうが大きくなりがちです。
鑑定評価という選択肢をどう検討するか
鑑定評価基準は広い土地に「開発法」を求めている
不動産鑑定評価基準は、更地の面積が近隣地域の標準的な土地に比べて大きい場合、分割利用が合理的であれば、区画割りして分譲することを想定した価格(開発法による価格)を比較考量して鑑定評価額を決定するよう定めています(各論第1章)。取引事例比較法による価格と、開発法による価格を突き合わせることで、上記の試算のような「業者が買える価格」が評価に反映されます。
通達評価を下回る鑑定評価を使うときの注意
通達評価額を下回る鑑定評価額で申告した事案では、その鑑定評価額が時価として認められた裁決・裁判例がある一方、鑑定の前提や手法の合理性が否定された例もあります。一般論として、鑑定評価が時価の根拠として説得力を持つかどうかは、区画割りの想定、造成費、販売期間などの前提が具体的な資料で裏付けられているかにかかっています。
したがって、鑑定評価を入れる前に「乖離がどの程度ありそうか」を見立てることが重要です。乖離が小さければ、鑑定評価の費用と手間に見合いません。
税理士と鑑定士の役割分担
鑑定評価額を申告に用いるか、通達評価で申告するかの判断は、税理士の先生の職域です。当事務所は「この土地の時価はいくらか」を判定し、その根拠を示すことを担当します。節税策として鑑定評価をお勧めすることはありません。申告方針や税額への影響は、担当の税理士の先生のご判断によります。
遺産分割の場面では別の物差しが必要
規模格差補正率は税務のための減額
地積規模の大きな宅地の評価は、相続税の課税価格を計算するための仕組みです。相続人間の遺産分割では、分割時の時価が基準となるため、規模格差補正率を適用した評価額をそのまま代償金の計算に使うと、上の試算のように実態とずれた数字で分けることになります。
申告と分割で同じ時価資料を活かす
広い土地を一人が取得して代償金を支払う場合、申告のための通達評価とは別に、分割のための時価が必要になります。鑑定評価で開発法を含めた時価を求めておけば、申告方針の検討材料と、遺産分割の協議資料の両方に活用できます。広い土地の時価が割れる理由は広い土地・不整形な土地の相続評価はなぜ割れるのかで、通達評価と時価の乖離の考え方は総則6項は「乖離が大きいだけ」では発動しないで解説しています。
まとめ
地積規模の大きな宅地の判定は形式要件で決まりますが、適用の有無と時価の水準は別の問題です。判定で迷う土地ほど、通達評価と時価の距離を一度確かめておく価値があります。
要点を振り返ります。
- 面積要件は三大都市圏500㎡以上・それ以外1,000㎡以上で、調整区域・工業専用地域・高容積率地域・大規模工場用地は除外
- 評価単位、容積率の境目、地区区分、三大都市圏の一部区域で判定が割れやすい
- 規模格差補正率は平均的な減価であり、開発負担が重い土地では適用後も時価を上回ることがある
- 要件から外れても、実態は分割分譲前提でしか売れない土地は乖離がさらに大きくなりがち
- 鑑定評価は開発法を含めて時価を求めるが、申告に用いるかの判断は税理士の先生の職域
- 遺産分割では規模格差補正率ではなく分割時の時価が基準になる
広い土地を含む相続税申告を担当される税理士の先生で、地積規模の大きな宅地の判定や評価額の水準に迷いがある場合は、申告方針を固める前にご相談ください。土地(更地)の鑑定評価書は30万円〜、時価の目安を把握するための価格等調査報告書は15万円〜(いずれも税別)です。詳しくは料金のご案内をご覧ください。
相続した不動産の評価でお悩みの相続人の方、依頼者の申告や遺産分割を支援される士業の先生は、初回無料相談をご利用ください。所在地・地積・接道状況をうかがえば、通達評価と時価の乖離がありそうか、鑑定評価を入れる実益があるかの見立てをお伝えします。
免責事項
本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。
不動産鑑定士が相続した不動産をどう評価するか、必要になるケースや費用は遺産分割の不動産鑑定のページでまとめています。
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