7月発表の路線価で実家を分けてよいのか──代償金が500万円ずれる場面と使える場面
路線価は毎年7月1日に発表される1月1日時点の相続税のための価格で、時価の8割程度が目安です。遺産分割に路線価を使える場面と、代償金が500万円ずれる危ない場面を、発表サイクルと計算例で不動産鑑定士が解説します。

路線価は毎年7月1日に国税庁から発表されます。2026年分も7月1日に公表され、全国平均は前年比2.9%の上昇でした。このニュースを見て「実家の土地は路線価でいくらになるのか。その数字で兄弟と分ければ公平なのでは」と考えた方も多いのではないでしょうか。
結論から申し上げます。相続人全員が納得していれば、路線価を目安に遺産分割をすること自体は禁止されていません。ただし、路線価は相続税を計算するための価格で、時価(市場で実際に成立するであろう価格)の8割程度を目安に設定されています。売って分ける場合や不動産の比重が小さい場合には大きな問題になりにくい一方、一人が不動産を取得して他の相続人に代償金を払う場面では、数百万円単位で一方が不利になります。
私たち鑑定士は、税務の数字と遺産分割の数字がずれる理由を、価格の成り立ちから説明できる立場にあります。この記事では、路線価の発表サイクルと価格時点の意味を整理したうえで、路線価を遺産分割に使える場面と危ない場面を、計算例とともに解説します。
路線価は毎年7月1日に発表される──年次サイクルと「1月1日時点」の意味
7月1日に発表、価格は1月1日時点
路線価(正式には相続税路線価。道路に面する標準的な宅地の1平方メートルあたりの価額)は、国税庁が毎年7月1日に公表します。各国税局のウェブサイト「財産評価基準書」で、誰でも無料で閲覧できます。
注意したいのは、7月に発表される路線価の価格時点がその年の1月1日だという点です。2026年7月に発表された路線価は、2026年1月1日時点の地価水準を前提にしています。その年の1月1日から12月31日までに開始した相続の土地評価には、原則としてこの1つの路線価を使います。
公的な価格の年間スケジュール
土地には路線価以外にも公的な価格があり、それぞれ発表時期と価格時点が異なります。
| 価格 | 発表時期 | 価格時点 |
|---|---|---|
| 地価公示(国土交通省) | 3月下旬 | 1月1日 |
| 路線価(国税庁) | 7月1日 | 1月1日 |
| 都道府県地価調査(基準地価) | 9月中旬〜下旬 | 7月1日 |
| 固定資産税評価額(市町村) | 3年ごとに評価替え | 基準年度の前年1月1日 |
2026年の都道府県地価調査は9月16日に公表されました。路線価は、この中で「地価公示の水準の8割程度」を目安に設定されています。4つの価格の関係は路線価と時価の違いでも整理しています。
1月から6月の相続は「発表待ち」になる
年の前半に相続が開始した場合、その年の路線価はまだ発表されていません。相続税の申告期限は相続開始を知った日の翌日から10か月以内ですので、申告に必要な路線価は期限までに公表されますが、遺産分割の話し合いを早く始めたい場面では「路線価が出るまで数字がない」という状態が生じます。前年の路線価で仮置きする方法もありますが、地価が動いている時期は前年の数字とずれる点に注意が必要です。
路線価で遺産分割してよいのか──税務の価格と分割の価格の違い
全員の合意があれば路線価で分けることもできる
遺産分割協議は、相続人全員の合意によって成立します。不動産をどの価格で評価するかについて法律上の決まりはなく、全員が路線価で納得しているなら、その数字で分けることも可能です。実際、「相続税の申告に使った評価額で揃えよう」という形で合意される例は少なくありません。
遺産分割の実務は「分割時の時価」が原則
一方で、話し合いがまとまらず家庭裁判所の調停・審判に進むと、不動産は分割時の時価で評価するのが実務の扱いです。ここでいう時価は、相続税の申告のための価格ではなく、市場で実際に取引されるであろう価格です。相続人の一人が「路線価では安すぎる」と異議を述べれば、路線価はそのまま分割の基準にはなりません。
路線価はそもそも時価の8割を目安にしている
路線価が時価より低めに設定されているのは、1年間同じ価格を使い続けるあいだに地価が下がっても、課税額が時価を上回らないよう安全幅を持たせているためです。平成4年分以降、路線価は地価公示価格の8割程度を目安に設定されています。つまり、路線価はもともと「控えめな数字」であり、時価そのものとして作られた価格ではありません。この構造を知らずに路線価で分けると、不動産を取得する人が有利になる方向に数字が傾きます。
路線価で分けても大きな問題になりにくい場面
売却して代金を分ける(換価分割)
不動産を売却して代金を分ける換価分割(遺産を売却し、代金を相続分に応じて分配する方法)であれば、実際の売却価格がそのまま分配の基礎になります。分割の段階で路線価を使っても、最終的な受取額は市場で決まるため、路線価と時価の差は問題になりにくくなります。
不動産の比重が小さい、または全員が同じ割合で取得する
遺産の大半が預貯金で不動産の比重が小さい場合や、各相続人が同じ割合で不動産を取得する場合は、評価の差が各人の取り分に与える影響も小さくなります。ただし、同じ割合での共有は将来の売却や管理で意見が割れやすく、問題を先送りしているにすぎない場合があります。
差を理解したうえで、あえて簡便な数字を選ぶ
相続人全員が「路線価は時価より低い」と理解したうえで、手間や費用を省くために路線価で合意するのであれば、それは一つの選択です。問題になるのは、差があることを知らないまま合意し、後から「こんなに安いとは思わなかった」と不満が噴き出す場合です。
路線価で遺産分割すると危ない場面
代償分割で一人が不動産を取得する
最も差が表面化しやすいのが代償分割(一人が不動産を取得し、他の相続人に代償金を支払う方法)です。次のような想定されるケースで計算してみます。数字は説明のための想定です。
- 相続人は長男と長女の2人(法定相続分は各2分の1)
- 遺産は実家のみで、長男が取得し長女に代償金を支払う
- 土地の路線価による評価額は2,400万円、建物の固定資産税評価額は200万円
- 土地の時価は3,300万円、建物の時価は300万円
| 項目 | 路線価ベース | 時価ベース |
|---|---|---|
| 実家の評価額 | 2,600万円 | 3,600万円 |
| 長女の取り分(2分の1) | 1,300万円 | 1,800万円 |
| 代償金の差 | ー | 500万円 |
路線価で合意すると、長女は時価ベースより500万円少ない代償金を受け取ることになります。逆に言えば、長男は500万円分の利益を得ます。土地の時価3,300万円は、路線価2,400万円を0.8で割り戻した3,000万円に、その後の地価上昇と個別の立地条件を加味した想定です。
地価が動いている地域で、相続開始から時間がたっている
路線価は年に1回、1月1日時点で定まります。2026年分の路線価は全国平均で5年連続の上昇となり、全国最高路線価の東京・銀座5丁目は前年比11.0%の上昇でした。相続開始から分割まで2〜3年かかると、相続開始年の路線価と分割時の時価との差はさらに開きます。遺産分割の基準時は分割時ですので、古い年の路線価をそのまま使うほど、実態とのずれが大きくなります。
路線価が時価を上回ってしまう土地
乖離は「路線価のほうが低い」方向だけではありません。再建築ができない土地、間口が狭く奥行きが長い土地、需要が弱い地域の土地などでは、実勢価格が路線価を下回ることがあります。このような土地を路線価で取得すると、取得した相続人は売れない価格を前提に代償金を支払うことになります。乖離が大きくなりやすい不動産の特徴は路線価と実勢価格の乖離が大きい不動産の特徴で詳しく解説しています。
マンション・収益物件は土地の路線価だけで決まらない
路線価は土地の価格です。マンションの相続税評価は土地の持分と建物の固定資産税評価額を基礎に計算するため、市場価格との差が土地以上に開くことがあります。賃貸アパートなどの収益物件も、市場では賃料収入から価格が形成されるため、路線価による評価とは考え方が異なります。
路線価を使う前に確認したい3つのこと
「路線価÷0.8」はあくまで出発点
路線価を0.8で割り戻すと、地価公示の水準に近い数字が得られます。概算の出発点としては有効ですが、これで時価が分かるわけではありません。路線価は道路ごとの標準的な宅地を前提にした単価で、個々の土地の形状・接道・周辺の取引事情までは織り込まれていません。不動産鑑定評価基準は、取引事例比較法・原価法・収益還元法といった複数の手法を併用し、対象不動産の個別的な要因を分析して価格を求めるよう定めています。路線価の割り戻しは、この個別分析を省いた数字だと理解しておくことが大切です。
価格時点を「分割時」に揃える
遺産分割で使う価格は、原則として分割時の価格です。相続開始年の路線価で相続税の申告を済ませた後に分割協議をする場合は、協議の時点の価格水準に揃えて考える必要があります。なお、遺留分の計算は相続開始時が基準時になるなど、場面によって基準時が異なる点にも注意してください。
必要な資料の「重さ」を場面で選ぶ
相続人同士で目安を共有したい段階と、調停で相手方に反論する段階では、求められる資料の重さが違います。当事務所では、金額の目安を知るための価格等調査報告書と、調停・審判でも根拠資料として使える鑑定評価書を用意しています。両者の違いはいわゆる「簡易鑑定」の正体で解説しています。費用の目安は、正式な鑑定評価書が30万円〜(マンション1室・借地権・底地・収益物件などは40万円〜)、金額の目安を知るための価格等調査報告書が15万円〜、相手方資料の検証(セカンドオピニオン)が5万円〜です(いずれも税別)。詳しくは料金のご案内をご覧ください。
なお、相続税の申告における土地の評価や、路線価と時価の乖離が税務上どう扱われるかは税理士の職域です。税務上の取扱いは税理士にご確認ください。
まとめ
路線価は毎年7月1日に発表される、1月1日時点の相続税のための価格です。全員が納得すれば遺産分割に使うこともできますが、時価の8割程度を目安とする構造上、代償分割では取得する側に有利な方向へ数字が傾きます。
要点を振り返ります。
- 路線価は毎年7月1日に国税庁が公表し、価格時点はその年の1月1日
- 路線価は地価公示価格の8割程度が目安で、時価そのものではない
- 相続人全員の合意があれば路線価で分けることもできるが、調停・審判では分割時の時価が基準になる
- 換価分割や不動産の比重が小さい場合は差が問題になりにくい
- 代償分割、地価が動いている地域、路線価が時価を上回る土地、マンションや収益物件では差が表面化しやすい
- 「路線価÷0.8」は出発点にすぎず、個別の土地の事情は反映されない
実家を一人が引き継いで代償金を支払う予定の相続人の方、路線価で示された代償金の額に納得できない相続人の方は、合意の前に時価との差を一度確認しておくことをおすすめします。
相続した不動産の評価でお悩みの相続人の方、依頼者の遺産分割を支援される士業の先生は、初回無料相談をご利用ください。路線価による評価額と、分割時点の時価がどの程度ずれそうかを、物件の条件をうかがったうえで整理してお伝えします。
免責事項
本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。
不動産鑑定士が相続した不動産をどう評価するか、必要になるケースや費用は遺産分割の不動産鑑定のページでまとめています。
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