現物・代償・換価・共有──同じ実家3,000万円を4通りに分けたら手取りはいくら違うか

実家3,000万円と預貯金600万円を相続人2人で分ける——現物・代償・換価・共有の4通りで、1人あたりの手取りは1,600万円から1,800万円相当まで変わります。手間と将来リスクも含めて実額で比較し、「とりあえず共有」が先送りにすぎない理由を不動産鑑定士が整理します。

著者:吉田 健人·読了 約16
現物・代償・換価・共有──同じ実家3,000万円を4通りに分けたら手取りはいくら違うか

遺産分割の話し合いで、最初に決めなければならないのは「実家をどう分けるか」です。分け方には、現物分割・代償分割・換価分割・共有分割という4つの型があります。名前だけ聞けばどれも公平に思えますし、実際、法定相続分どおりに分けるという意味ではどれも公平です。

けれども、選んだ方法によって最後に各人の手元に残る金額はまったく違います。同じ3,000万円の実家でも、売って分ければ諸費用と税金が差し引かれ、土地を切って分ければ土地そのものの価値が目減りし、共有のまま持てば名目上の1,800万円がいつまでも現金にならない、ということが起こります。

私たち鑑定士は分け方が決まる前の段階でご相談を受けることが少なくありませんが、そこで痛感するのは、4つの方法を「手取り・手間・将来リスク」の3軸で並べた資料を誰も相続人に示していないことです。この記事では、想定したひとつの相続を4通りに分け、結果がどう変わるかを実額で追いかけます。

4つの分け方を、ひとことで整理する

現物分割は遺産をそのままの形で分ける方法で、土地であれば分筆(一筆の土地を複数に分けて登記すること)して各人が取得します。代償分割は相続人の一人が不動産を取得し、取り分を超えた分を他の相続人に金銭で支払う方法です。換価分割は不動産を売却して代金を分ける方法で、現金になるため一円単位まで公平に分けられます。共有分割は不動産を相続人の共有名義とし、持分割合だけを定める方法です。手続きは簡単で費用もかからず、そして、これが本記事でもっとも注意を促したい選択肢です。

4つの仕組みと選び方の全体像は遺産分割の4つの方法にまとめています。ここから先は、数字で比べます。

想定するケース──実家3,000万円・預貯金600万円

前提条件を置く

次の状況を想定します。実在の事案ではありません。被相続人は父、相続人は姉と弟の2人で法定相続分は各2分の1。遺産は父が一人で暮らしていた実家(土地150平方メートル・築40年の木造家屋)と預貯金600万円で、実家の市場価値は3,000万円と判定されたものとします。

遺産総額は3,600万円、各人の取り分は1,800万円です。この1,800万円が4つの方法でどう姿を変えるかを見ていきます。なお、譲渡所得や特例の適用可否といった課税上の取扱いは個別事情で変わりますので、実際の判断にあたっては税理士にご確認ください。

現物分割──土地を切ると、合計の価値が減る

土地150平方メートルを75平方メートルずつに分筆し、姉と弟が一筆ずつ取得する。預貯金は300万円ずつ。これで各1,800万円になる——机上ではそう見えます。しかし、そうはなりません。

しかし、土地の価値は面積に比例しません。間口10メートル・奥行15メートルの整形地を縦に割れば、間口5メートルの細長い土地が二つできます。駐車場を取りにくい、建てられる建物の形が制約されるといった理由で単価は下がります。奥行方向に割れば道路に接しない奥の土地が生まれ、接道義務(建築基準法第43条。敷地は幅員4メートル以上の道路に2メートル以上接しなければならないという原則)を満たさず再建築不可となりかねません。

このケースでは、分筆後の2区画の価値がそれぞれ1,300万円、合計で2,600万円まで減価すると判定されたとします。3,000万円の土地が、切ったとたんに400万円失われる計算です。各人の取得額は1,300万円+預貯金300万円で1,600万円。ほかに分筆登記のための測量費用(境界確定を伴う場合は数十万円規模)と、古家の扱いという問題も残ります。

土地を割ってよいかどうかは、面積ではなく形状と接道で決まります。「半分にすれば公平」は、不動産では成り立たないことがあると申し上げておきます。

代償分割──売却コストがかからない代わりに、現金が要る

姉が実家を残したいと考えているため、姉が実家3,000万円を取得し、預貯金600万円は弟が受け取る。姉の取得額は3,000万円で取り分を1,200万円超えていますから、姉は弟に代償金1,200万円を支払います。結果は姉が「実家+現金マイナス1,200万円」、弟が現金1,800万円です。

この方法の強みは、仲介手数料も解体費も譲渡所得税も発生しないことです。遺産の価値が外部に流出しないという意味で、4つの中でもっとも効率がよい分け方です。

弱点は明快で、姉に1,200万円の現金が必要な点に尽きます。もう一つ、代償金の額は評価額から機械的に決まるため、入口の3,000万円が争点そのものになります。相続人が2人なら、評価額が400万円動けば代償金は200万円動きます(代償金の金額は評価額で決まる)。

換価分割──「3,000万円で売れたから1,500万円ずつ」ではない

実家を3,000万円で売却し、代金を分ける。もっとも公平に見えますが、手取りは売却価格を人数で割った額にはなりません。仲介手数料は売買価格の3パーセントに6万円を加えた額が上限(宅地建物取引業法に基づく告示。400万円超の場合)で、消費税込み約106万円。築40年の家屋を解体して更地で引き渡すなら、木造30坪程度で解体費が約150万円。合わせて約256万円が売却に伴う費用です。

さらに譲渡所得税があります。父がいくらで買ったかを示す資料が見つからない場合、取得費は売却価格の5パーセント(概算取得費)として計算されるのが一般的です。すると譲渡所得は3,000万円-150万円-256万円で約2,594万円。長期譲渡所得の税率20.315パーセント(所得税15パーセント・復興特別所得税0.315パーセント・住民税5パーセント)を乗じると、約527万円の税負担です。

ただし、一定の要件を満たせば、被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの3,000万円特別控除を適用できる場合があります(租税特別措置法第35条第3項。適用期限は令和9年12月31日までの譲渡)。使えれば上記の譲渡所得はほぼ控除され、税負担は生じません。要件は昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること、売却代金が1億円以下であることなど多岐にわたり、令和6年1月1日以後の譲渡では取得した相続人が3人以上の場合の控除額は2,000万円に縮小されています。適用の可否は必ず税理士にご確認ください。

結果、手取りは特例が使える場合で2,744万円、使えない場合で約2,217万円。預貯金600万円を加えた遺産は3,344万円または2,817万円で、各人の手取りは1,672万円または約1,408万円となります。名目の1,800万円との差は128万円から392万円です。売り出し前に「いくらなら応じるか」の下限を共有しておく重要性は換価分割の進め方で詳しく述べています。

共有分割──名目1,800万円、現金化はゼロ

実家を姉2分の1・弟2分の1の共有とし、預貯金は300万円ずつ。登記簿には各人の持分が記載され、形式的には完全に公平です。費用は相続登記の登録免許税程度で、争いも起きません。

しかし、この1,800万円は現金になっていません。持分だけを第三者に売ることは法律上可能ですが、買い手は限られ、実際の取引では市場価格を大きく下回る水準でしか成立しません(共有持分だけを売ることはできるのか)。いつでも1,800万円に換えられる資産ではないのです。

4通りを一覧で比べる

手取り・手間・将来リスク

ここまでの結果を並べます。金額は想定ケースにおける1人あたりの数字です。

分け方1人あたりの取得額手間・期間主な将来リスク
現物分割(分筆)1,600万円測量・分筆登記で2〜4か月分筆後の土地が使いにくい・再建築不可
代償分割1,800万円相当協議成立後すぐ取得側の資金調達、評価額をめぐる対立
換価分割1,672万円(特例適用時)売却完了まで6か月〜1年売り急ぎによる値下がり、税負担
共有分割名目1,800万円相続登記のみ全員同意の壁、二次相続、10年の期間制限

数字だけを見れば、代償分割がもっとも有利です。遺産の価値が外部に流出しないからで、これは偶然ではなく構造的な結論です。次いで換価分割、現物分割と続きます。

差が生まれる理由は「摩擦」

なぜ差が出るのか。理由は単純で、不動産を動かすたびに摩擦が生じるからです。売れば仲介手数料と税金がかかり、切れば土地の使い勝手が落ちる。動かさずに済む代償分割だけが、この摩擦を回避できます。実家を残したい相続人がいて資金の目処が立つのであれば、代償分割を軸に検討するのが合理的です。

「とりあえず共有」が先送りにすぎない理由

使うにも売るにも、全員の同意が要る

共有分割の表では「主な将来リスク」の欄がもっとも重くなっています。理由を三つに分けて説明します。

第一に、共有物は自由に動かせません。共有物の変更(売却や建替えなど、形状や効用の著しい変更を伴う行為)には共有者全員の同意が必要で(民法第251条第1項)、賃貸に出すなどの管理行為も持分の過半数の同意を要します(民法第252条第1項)。姉が「そろそろ売りたい」と言い、弟が「まだ待ってほしい」と言えば、それだけで何も進みません。固定資産税は毎年出ていき、建物は傷み続けます。

二次相続で、当事者が雪だるま式に増える

第二に、時間の経過が状況を悪化させます。共有者の一人が亡くなれば、その持分はさらにその相続人へと分かれます。姉と弟の2分の1ずつが、次の世代で4人、その次で8人と広がっていく。全員の同意という条件は、当事者が増えるほど達成が難しくなります。面識のない親族の実印を集める作業を、20年後の誰かが引き受けることになります。

なお、共有関係を裁判で解消する共有物分割訴訟については、令和5年4月1日施行の改正民法で賠償分割(共有者に債務を負担させて他の共有者の持分を取得させる方法)が明文化され、検討順序も整理されました(民法第258条)。ただし訴訟は最終手段で、費用と時間を要します。手続きの選択は弁護士にご相談ください。

10年を過ぎると、主張できたはずの事情が消える

第三に、制度上の期限があります。相続開始の時から10年を経過した後にする遺産分割は、原則として具体的相続分(特別受益や寄与分を反映した取り分)ではなく、法定相続分によることとされました(民法第904条の3。令和5年4月1日施行)。

これは「とりあえず共有」にとって決定的です。父の介護を10年続けた、生前に多額の住宅資金を援助されていた——そうした事情は、10年を過ぎれば原則として主張できなくなります。共有にして放置した10年は、公平を実現する手段を自ら手放す10年でもあるのです(共有と遺産分割)。

積極的に共有を選ぶ場面はあるか

共有が常に誤りというわけではありません。近い将来の売却が全員で合意できている場合や、収益物件を共同保有して賃料を分ける運用が回っている場合は合理的な選択です。問題なのは、決められないから共有にするという選び方です。それは分割方法の選択ではなく、選択の放棄です。断言しますが、決められないまま共有にした不動産は、時間が経つほど解決が難しくなります。

どの方法を選んでも、出発点は同じ数字

4つとも評価額の上に立っている

4つの方法は結果がまったく違います。ところが、比較の前提はすべて同じです。実家がいくらの価値なのか、という一つの数字です。

代償分割ではその数字が代償金を直接決めます。現物分割では、分筆で価値がどれだけ減るかの判断が要ります。換価分割では、売り出し価格の妥当性と「いくらなら応じるか」の下限を決めるのに使います。共有分割ですら、持分の名目価値はその数字から出ています。評価額が定まらないまま分け方を議論することは、値札を見ずに買い物の予算を組むようなものです。

査定額と鑑定評価額は役割が違う

出発点の数字として不動産会社の無料査定書を使うことがあります。売却の可能性を探る段階では有用ですが、査定額は媒介契約の獲得を目的とした営業上の価格提示であり、会社によって数百万円の幅が出ることは珍しくありません(無料査定はどこまで使えるか)。

利害の対立する相続人の間で分け方を決める場面では、中立の第三者が根拠を示した数字が要ります。不動産鑑定士が作成する鑑定評価書は不動産の鑑定評価に関する法律に基づく専門家の意見で、調停や審判でも価格資料として扱われます。争いが小さい段階であれば、より簡易な価格等調査報告書という選択肢もあります。

まとめ

同じ実家3,000万円でも、分け方を変えれば手元に残る金額は変わります。名目の1,800万円がそのまま残る方法はむしろ例外で、多くの場合は摩擦の分だけ目減りします。要点を振り返ります。

  • 現物分割は土地を切ることで価値が減ることがあり、想定ケースでは3,000万円が2,600万円になった
  • 代償分割は売却コストも税負担も生じないため、遺産の価値がもっとも減らない
  • 換価分割は仲介手数料・解体費・譲渡所得税が差し引かれ、想定ケースの手取りは1人1,672万円(空き家の3,000万円特別控除が使えない場合は約1,408万円)
  • 共有分割は名目上は公平だが、全員同意の壁・二次相続による当事者の増加・10年の期間制限という三つのリスクを抱える
  • 「決められないから共有」は分割方法の選択ではなく選択の放棄であり、時間が経つほど解決は難しくなる
  • 4つのどれを選ぶにせよ、比較の出発点は「その不動産がいくらか」という一つの数字である

これから分け方を決める相続人の方、依頼者に選択肢を提示する税理士・弁護士・司法書士の先生方にとって、最初にすべきことは同じです。分け方を議論する前に、根拠を示せる評価額を一つ置くこと。土台が定まれば、4つの比較は感情論ではなく数字の比較になります。

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本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

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