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相続土地国庫帰属制度は負担金を払って手放す制度──司法書士の先生へ、申請前に市場価値を測る理由

相続土地国庫帰属制度は、要件を満たした土地を負担金を払って国に引き取ってもらう制度です。却下・不承認の要件、市街化区域内の宅地の負担金の試算、売却・隣地への打診との比較を整理し、申請前に市場価値を測るべき理由を不動産鑑定士が解説します。

著者:吉田 健人·読了 約14分
相続土地国庫帰属制度は負担金を払って手放す制度──司法書士の先生へ、申請前に市場価値を測る理由

相続登記のご相談で、「この土地はいらないので、国に引き取ってもらえませんか」という声を聞く機会が増えていないでしょうか。2023年4月27日に始まった相続土地国庫帰属制度は、相続した土地を手放す道として知られるようになりました。ただ、相談の時点で、引き取ってもらえるのか、申請が得なのかを確かめている方はまずいません。

ご相談者は「タダでもいいから手放したい」と口にします。けれども、相続土地国庫帰属制度は無償で引き取ってもらう制度ではありません。要件を満たした土地について、10年分の管理費に相当する負担金を払って手放す制度です。

結論から申し上げます。申請を決める前に、その土地の市場価値を一度測っておくべきです。第三者や隣地所有者に売れる見込みがあるなら、負担金を払って手放すより売却や寄付のほうが手元に残るお金は多くなります。反対に、売れる見込みが乏しいと分かれば、負担金は「10年分の管理費の前払い」として納得のいく出費になります。この記事では、要件と負担金を整理したうえで、私たち鑑定士が市場価値をどう測り、選択肢の比較に役立てられるかをお伝えします。

相続土地国庫帰属制度の要件──引き取ってもらえない土地の線引き

申請できる人と、却下される5つの土地

申請できるのは、相続または相続人への遺贈によって土地の所有権の全部または一部を取得した人です(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律 第2条第1項。以下「国庫帰属法」)。共有地は共有者全員で申請し、制度開始前に相続した土地も対象です。

そのうえで、次のいずれかに当たる土地は、審査に入る前の段階で申請が却下されます(国庫帰属法 第2条第3項、第4条)。

  • 建物がある土地
  • 担保権や使用収益権(賃借権など)が設定されている土地
  • 通路・墓地・ため池など、他人の利用が予定されている土地
  • 土壌汚染対策法上の特定有害物質に汚染されている土地
  • 境界が明らかでない土地、所有権の存否・範囲に争いがある土地

実家の土地で問題になりやすいのは建物と境界です。建物は解体しなければ申請できず、境界は隣地所有者と認識が一致している必要があります。境界の確定については境界が決まっていない実家は分けられるのかで詳しく整理しています。

審査で不承認になる5つの土地

却下を免れても、審査の結果、次のような土地は不承認になります(国庫帰属法 第5条第1項)。

  • 一定の勾配・高さの崖があり、管理に過分な費用・労力がかかる土地
  • 管理や処分を妨げる工作物・車両・樹木などが地上にある土地
  • 除去が必要な有体物(古い基礎、浄化槽、廃棄物など)が地下にある土地
  • 隣地所有者などとの争訟によらなければ管理・処分ができない土地
  • その他、通常の管理・処分に過分な費用・労力がかかる土地

要件は「国が管理しやすいか」という観点で組み立てられており、売れるかどうかは審査の対象ではありません。

統計で見る実態──取下げの半数は「有効活用の見込み」

法務省が公表している統計(2026年8月31日現在)によれば、申請件数は5,997件、国庫に帰属した件数は3,119件です。却下は85件、不承認は100件にとどまります。

注目すべきは取下げです。取下げ1,139件のうち586件、つまり約半数は「有効活用の見込み」が理由とされています。自治体や国の機関による活用が決まった、隣接地の所有者から引き受けの申出があった、農業委員会の調整で農地として使われる見込みが立った、といった内容です。

「誰も欲しがらない」と思われていた土地にも、引き取り手が現れることは少なくないのです。

相続土地国庫帰属制度の負担金はいくらか──10年分の管理費を前払いする仕組み

原則20万円、面積で算定される3つの区分

費用は2段階です。まず申請時に、土地1筆あたり14,000円の審査手数料を収入印紙で納めます。却下・不承認になっても返ってきません。

承認されると、負担金の通知が届きます。負担金は、その土地の種目ごとに国が管理に要する10年分の標準的な費用を考慮して算定され(国庫帰属法 第10条第1項)、通知を受けた日から30日以内に納めなければ承認は効力を失います(同条第3項・第4項)。

負担金は原則として1筆20万円です。ただし、次の3つの区分は面積に応じて算定されます。

  • 市街化区域または用途地域が指定されている地域内の宅地
  • 市街化区域・用途地域内の農地、農用地区域内の農地、土地改良事業等の施行区域内の農地
  • 森林

隣接する同じ種目の複数の筆は、申出により1つの土地として算定でき、筆数が多い土地では負担金が大きく変わります。

宅地の負担金を面積別に試算する

実家の相続で多い市街化区域内の宅地について、法務省が示す算定式に当てはめると次のとおりです。

面積算定式(その面積区分のもの)負担金
100平方メートル2,720円×面積+27万6,000円54万8,000円
200平方メートル2,450円×面積+30万3,000円79万3,000円
300平方メートル2,250円×面積+34万3,000円101万8,000円
500平方メートル2,110円×面積+39万9,000円145万4,000円

「原則20万円」だけが伝わっていると、ご相談者は負担金をかなり低く見積もりがちです。200平方メートルで約80万円という水準は、最初にお伝えしておきたい数字です。

申請前に積み上がる費用

建物が残っていれば解体費がかかり、木造住宅でも規模によっては100万円を超えます。境界標がなければ測量が、地中に古い基礎や浄化槽があれば撤去が必要です。これらを合計した「手放すための総費用」が、売って得られる金額を上回ることも珍しくありません。だからこそ、費用と価値を同じ物差しで並べて比べる必要があります。

いらない土地を相続したとき、手放す選択肢は国庫帰属だけではない

5つの選択肢を比べる

相続した土地を手放したい場面で、取り得る選択肢は主に5つあります。

選択肢手元のお金主なハードル向く土地
第三者へ売却売却代金が入る買い手探し・仲介手数料一般市場で需要がある土地
隣地所有者へ売却・贈与代金が入るか、費用ゼロ相手の意向次第隣地と一体で使うと価値が上がる土地
自治体などへ寄付費用ゼロ受け入れは限定的公共用途の見込みがある土地
相続土地国庫帰属制度負担金等を支払う要件・審査・負担金引き取り手のない土地
保有を続ける税・管理費を払い続ける管理責任が残る将来の利用予定がある土地

相続開始を知ってから3か月以内なら相続放棄(民法第915条)もありますが、相続財産全体を放棄することになり、特定の土地だけを手放すことはできません。放棄の可否は弁護士にご確認ください。

第三者に売れない土地でも、隣地には価値がある──限定価格という考え方

ここで、私たち鑑定士だから示せる視点があります。不動産鑑定評価基準は、市場で不特定多数を相手に成立する価格を「正常価格」とし、これと区別して、隣接する不動産を併合するための売買のように市場が相対的に限定される場合の価格を「限定価格」と定めています(不動産鑑定評価基準 総論第5章第3節)。

たとえば、間口が狭く単独では建物を建てにくい土地は、一般の買い手にはほとんど評価されません。しかし隣地の所有者にとっては、自分の土地と一体にすることで間口が広がり、敷地全体の使い勝手が良くなります。その増分の価値があるからこそ、隣地所有者は一般の買い手より高い価格を払う合理的な理由を持ちます。

取下げ理由に「隣接地所有者による引き受けの申出」が含まれているのは、この構造の表れだと私たちは考えています。申請前に隣地所有者にとっての価値を確かめるだけで、負担金を払う側から代金を受け取る側に回れることがあるのです。

想定されるケース:郊外の実家跡地200平方メートル

設定

地方都市の郊外にある、市街化区域内の宅地200平方メートルを相続した相続人を想定します。相続人は首都圏に住んでいて、この土地を使う予定はありません。木造の古家が残っていますが、境界標はすべて確認でき、隣地との争いはありません。

数字はいずれも説明のための仮定です。

  • 解体費:150万円
  • 審査手数料:1万4,000円(1筆)
  • 負担金:79万3,000円(上の表の200平方メートルの宅地)
  • 保有を続ける場合の固定資産税と草刈りなどの管理費:年8万円

市場価値によって、最善の選択は逆転する

国庫帰属を選ぶと、解体費・審査手数料・負担金で合計約231万円を支払って土地を手放すことになります。この金額が妥当かどうかは、土地の市場価値によってまったく変わります。

土地の市場価値の見立て国庫帰属売却判断の目安
更地で300万円約231万円の支出解体後に売却し、約150万円が残る売却が有利(差は約380万円)
隣地所有者なら100万円約231万円の支出解体費を差し引くと約50万円の持ち出し隣地への売却を先に打診
買い手が見込めない約231万円の支出成立しない国庫帰属が有力

1つめなら、申請すると約231万円を払い、受け取れたはずの約150万円も失います。2つめでも、隣地所有者へ売るほうが持ち出しは小さく済みます。3つめの買い手がいない土地なら、保有を続けると管理費は10年で約80万円、建物の工作物責任(民法第717条)も残ります。このときの負担金は、将来の負担と責任から解放されるための合理的な費用です。

市場価値の見立てひとつで、申請すべきかどうかの答えは逆転します。断言します。申請の前に価値を測らないまま負担金を払うのは、価格を確かめずに売却するのと同じくらい危うい判断です。

解体費や固定資産税は地域や建物で大きく異なります。売却時の税金の扱いは税理士にご確認ください。

申請前に市場価値を測るときの実務

鑑定士が見る3つのポイント

いらない土地の価値を測るとき、私たち鑑定士は主に次の3点を確認します。

1つめは市場性です。周辺の取引の有無と、買い手として誰が想定できるかを調べます。

2つめは最有効使用(その土地を最も合理的に使った場合の用途)です。宅地として需要がなくても、資材置き場や駐車場、隣地の庭としてなら需要がある土地は少なくありません。

3つめは処分費用です。解体費や測量費を差し引くと価値がマイナスになる土地もあり、それを数字で示せれば、負担金を払ってでも国庫帰属を選ぶ理由が明確になります。

費用をかけすぎない調べ方

ここで注意したいのは、価値の低い土地に高い調査費をかけては本末転倒だということです。費用の目安は、正式な鑑定評価書が30万円〜(マンション1室・借地権・底地・収益物件などは40万円〜)、金額の目安を知るための価格等調査報告書が15万円〜、相手方資料の検証(セカンドオピニオン)が5万円〜です(いずれも税別)。詳しくは料金のご案内をご覧ください。

国庫帰属を検討する土地の多くは、正式な鑑定評価書までは必要ありません。まず初回無料相談で所在地・地目・面積・現況をうかがい、市場性の見立てをお伝えします。成果物は、売却や隣地との交渉に価格の根拠が必要になった段階で検討すれば十分です。

申請書類の作成は先生の職域、価格の判定と根拠の提示は当事務所の職域です。役割を分けることで、ご相談者は費用と価値の両方を見て判断できます。司法書士の先生との連携の場面は司法書士の先生が不動産鑑定士と連携する場面でも整理しています。

まとめ

相続土地国庫帰属制度は、負担金を払って土地を手放す制度です。申請するかどうかは、費用の側だけでなく、その土地の市場価値と並べて判断する必要があります。

要点を振り返ります。

  • 建物がある土地や境界が明らかでない土地は却下され、崖や地下埋設物がある土地は不承認になり得る
  • 負担金は原則1筆20万円だが、市街化区域内の宅地は面積で算定され、200平方メートルで79万3,000円になる
  • 取下げの約半数は「有効活用の見込み」が理由であり、申請前に引き取り手が見つかる土地は少なくない
  • 一般市場で売れない土地でも、隣地所有者にとっては併合による価値があり、限定価格として把握できる
  • 市場価値の見立てひとつで、売却・隣地への打診・国庫帰属のどれが最善かが逆転する

相続登記や遺産承継の中で「いらない土地」のご相談を受けている司法書士の先生、そして相続した土地を手放すべきか迷っている相続人の方。申請書を作る前に、その土地に引き取り手がいる可能性を一度確かめてみてください。

当事務所は、国庫帰属を検討している土地の市場性と、隣地所有者にとっての価値を、費用をかけすぎない形で見立てます。相続した不動産の評価でお悩みの相続人の方、依頼者の遺産分割や土地の処分を支援される士業の先生は、初回無料相談をご利用ください。

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

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