建てられない土地は半値なのか──再建築不可の実家を相続したときの評価の考え方
再建築不可の実家は「相場の5割から7割」と言われますが、その平均値を自分の土地に当てはめてよいとは限りません。接道義務の仕組みから、減価がどこまで及ぶのか、隣地との一体利用という出口をどう価格に織り込むのかを不動産鑑定士が整理します。

相続した実家について、不動産会社から「この土地は再建築不可ですね」と言われた。その一言で、話が急に止まってしまう。売れないのか、価値がないのか、兄弟にどう説明すればいいのか。相続のご相談で、こうした戸惑いをよく伺います。
インターネットで調べれば「再建築不可は相場の5割から7割」といった数字がいくつも出てきます。けれども、その数字を自分の実家にそのまま当てはめてよいのかは、まったく別の問題です。同じ「再建築不可」でも、隣地を買えば建てられる土地と、四方を他人の家に囲まれて出口が見えない土地では、市場での評価はまるで違います。ネットの平均値で代償金を決めてしまえば、取得する側か渡す側のどちらかが確実に損をします。
私たち鑑定士は、こうした土地について「なぜ建てられないのか」「その状態を解消できる見込みはあるのか」という二つの問いから価格を組み立てます。この記事では、接道義務の仕組みを整理したうえで、再建築不可がどの程度の減価要因となりうるのか、そして隣地との一体利用という出口をどう価格に織り込むのかを、遺産分割の場面に即して説明します。
「再建築不可」とは何が起きている状態か
接道義務という最低ライン
まず押さえるべきは、再建築不可が土地そのものの欠陥ではなく、法律上の要件を満たしていない状態を指す言葉だということです。建築基準法は、建築物の敷地は道路に2メートル以上接しなければならないと定めています(建築基準法第43条第1項)。これを接道義務といいます。ここでいう道路は原則として幅員4メートル以上のもので、私道であっても一定の要件を満たせば道路として扱われます。
この要件を満たさない土地には、新たに建築確認が下りません。つまり、いま建っている家を取り壊すと、その後に建物を建てられなくなります。建物が残っているうちは住むことも貸すこともできるという点が、更地の場合との大きな違いです。「価値がゼロ」ではなく、「建て替えという選択肢が塞がっている」状態だと理解してください。
二項道路とセットバック
実家の前面道路が4メートルに満たない場合でも、直ちに再建築不可とは限りません。建築基準法が施行された時点ですでに建物が立ち並んでいた幅員4メートル未満の道について、特定行政庁が指定したものは道路とみなされます(同法第42条第2項)。いわゆる二項道路です。この場合、道路の中心線から2メートル後退した線が道路境界線とみなされ、後退した部分には建物や塀を建てられません。これがセットバックです。
セットバックが必要な土地は、建物を建てられる面積がその分だけ減ります。再建築不可ではありませんが、有効に使える面積が登記簿の地積より小さいという意味で、価格には確実に影響します。査定書がこの後退部分を考慮しているかは、必ず確認すべき点です。
旗竿地は「幅」で決まる
住宅地でよく見られるのが、道路から細い通路で奥の敷地につながる旗竿地(形が旗と竿に似ていることからこう呼ばれます)です。旗竿地の可否は、竿にあたる通路部分の幅で決まります。幅が2メートル以上あれば接道義務を満たしますが、1.8メートルしかなければ満たしません。わずか20センチの違いで、建て替えられる土地とそうでない土地に分かれます。
なお、地方公共団体の条例で、通路が一定以上の長さになる場合に必要な幅を上乗せしている地域もあります。幅2メートルなら全国どこでも安心、とは限りません。土地の形状が価格に及ぼす影響については広い土地・不整形な土地の相続評価はなぜ割れるのかでも整理しています。
建てられないと、価格はどう動くか
減価の本体は「買い手が限られること」
再建築不可の土地が安くなる理由を「建てられないから」と一言で片づけると、価格の組み立てを見誤ります。減価の本体は、買い手の層が極端に狭くなることにあります。
一般の住宅購入者は、住宅ローンを使って家を買います。ところが再建築不可の土地は担保としての評価が低くなりやすく、金融機関によっては融資の対象から外れます。現金で買える人しか買い手に残らず、競争が働かないため、売主は価格を下げるほかなくなります。加えて、建物が老朽化したあとの使い道が読みにくいという不確実性も価格を押し下げます。結局のところ、再建築不可の減価とは、法律上の制限が市場での需要をどれだけ削るかという問題です。
「何割」という相場観をそのまま当てはめない
実務の世界では、再建築不可の土地は再建築可能な近隣地と比べて5割から7割程度で取引されることが多いといわれます。ただし、これはあくまで全国のさまざまな事例をならした感覚値です。同じ再建築不可でも、次のような条件によって実際の水準は上下します。
| 価格が戻りやすい条件 | 価格が戻りにくい条件 |
|---|---|
| 隣地の所有者が買い増しに前向き | 四方を他人の敷地に囲まれている |
| 通路の幅が2メートルにあと少し | 通路がなく完全な無道路地 |
| 建物が使える状態で賃貸できる | 建物が老朽化し解体しかない |
| 地価水準が高く出口の選択肢が多い | 地価水準が低く投資が見合わない |
私たち鑑定士は、「相場は5割だから5割」という決め方をしません。建てられない状態を解消できる可能性がどの程度あるのかを具体的に調べ、解消に必要な費用と時間を見積もったうえで、減価の程度を判断します。
相続税評価の減額と、遺産分割で使う価格は別物
ここで混同されやすい点があります。相続税を計算するための評価と、遺産分割で相続人どうしが分けるための価格は、目的が違う別の数字です。
相続税の世界では、道路に接していない土地や接道義務を満たしていない土地について、接道義務を満たす最小限度の通路を開設するとした場合の、その通路に相当する部分の価額を控除して評価する定めがあります。ただし控除できるのは、不整形地などとして計算した価額の100分の40の範囲内とされています(財産評価基本通達20-3)。課税の公平を保つため、減額の幅にあらかじめ上限が設けられているわけです。
しかし市場には、この上限に対応するものはありません。出口が本当に見えない土地であれば、近隣の標準的な宅地の3割程度でしか買い手がつかないこともあります。逆に、隣地が明確に買い増しを望んでいる土地なら、通達による減額よりも高く売れることがあります。相続税評価額をそのまま遺産分割の基準にすると、実勢とずれた分け方になりかねません。この構造は路線価と実勢価格の乖離が大きい不動産の特徴でも述べています。なお、相続税の申告でどの評価方法を採るかは税理士にご確認ください。
想定されるケース:どの価格で分けるかで代償金はこう変わる
設定
ここから先は、実在の事案ではなく想定されるケースです。数値は仕組みを説明するための仮定であり、個別の土地の評価を保証するものではありません。
被相続人が残した実家は、土地100平方メートル、木造2階建て、築45年。前面の通路は幅1.8メートルで、接道義務を満たしていません。隣家の所有者は、自宅の敷地が手狭であるため、この土地を買い増すことに関心を示しています。相続人は長男と長女の2人で、長男が実家を取得し、長女に代償金を支払う代償分割を検討しています。近隣の再建築可能な宅地の実勢単価は1平方メートルあたり30万円とします。
三つの前提で、金額はどう変わるか
同じ土地について、どの価格を使うかで代償金は次のように動きます。
| 採用する価格の考え方 | 土地の評価額 | 長女の代償金 |
|---|---|---|
| 再建築可能地と同水準(誤り) | 3,000万円 | 1,500万円 |
| 出口が見えない前提(3割) | 900万円 | 450万円 |
| 隣地への売却を織り込む(7割) | 2,100万円 | 1,050万円 |
三つの数字の開きは、そのまま兄妹の受け取る金額の差になります。出口を見ない評価で決めれば長女は600万円取りはぐれ、逆に一般の宅地と同じ水準で決めれば長男は1,500万円を払ったうえで売るに売れない土地を抱え込みます。
差を生むのは「隣地の意向」という事実
このケースで価格を分けている決定的な要素は、隣家が買い増しに関心を持っているという事実です。その関心が現実の話なのか、挨拶程度の世間話なのかで、織り込める価格はまったく変わります。
私たち鑑定士は、こうした場面で隣地の敷地規模、建物の建築時期、建ぺい率や容積率の余裕、増築や建て替えの必要性を調べ、併合の経済合理性が客観的に認められるかを判断します。「買ってくれるかもしれない」という期待と、「買えば隣地の価値が明確に上がる」という構造は、別の話です。代償金の決まり方については代償金の金額は評価額で決まるもあわせてご覧ください。
「建てられない」を解く出口
隣地との一体利用──併合で価値が戻る
再建築不可の土地にとって、もっとも現実的な出口は隣地との一体利用です。道路に接している隣地とひとつにまとまれば、接道義務を満たす一画地となり、建て替えが可能になります。このとき、買い増す側にとっては自分の土地の価値も上がりますから、市場に出したときの価格より高く買う経済合理性が生じます。
不動産鑑定評価基準は、隣接する不動産の併合を目的とする売買のように、市場が相対的に限定される場合の価格を限定価格として位置づけています。正常価格(市場で不特定多数を相手に成立するであろう価格)とは別の価格概念です。遺産分割の場面では、この土地を一般市場で売った場合の価格と、隣地所有者に売った場合の価格の両方を把握しておくと、分け方の選択肢が広がります。
通路の幅が2メートルにあと少し足りないだけであれば、その不足分だけを隣地から分けてもらうという方法もあります。ただし、わずかな面積でもそれによって再建築不可が解消される以上、相手方にとっては強い交渉材料です。取得費が想定より高くつくことも珍しくありません。
建築基準法第43条第2項の認定・許可
法律上の救済制度も存在します。幅員4メートル以上の道に2メートル以上接する建築物のうち、国土交通省令で定める基準に適合し、特定行政庁が安全上支障がないと認めたものは建築が可能です(建築基準法第43条第2項第1号)。また、周囲に公園・緑地・広場等の広い空地を有する建築物などで、特定行政庁が建築審査会の同意を得て許可したものも同様です(同項第2号)。
ただし過度な期待は禁物です。第2号の許可は、その建築計画についての個別判断であり、一度許可を受ければ将来も自由に建て替えられるという性質のものではありません。建て替えのたびに改めて許可を求める必要があります。したがって価格に織り込むときも、「許可を得られる見込みが高い」ことと「恒久的に建築可能である」ことは、はっきり区別して扱います。
遺産分割で再建築不可の土地をどう扱うか
取得する人が背負うもの
現物分割や代償分割で再建築不可の土地を取得する相続人は、金額だけでは見えない負担を引き受けます。建て替えができない以上、建物が使えなくなった時点で、その土地は持ち続けるか隣地所有者との交渉に臨むかの二択になります。売却しようとしても買い手が限られ、希望の時期に現金化できるとは限りません。建物を取り壊せば、固定資産税の住宅用地の特例も外れます。
こうした将来の負担を織り込まずに「評価額いくら」とだけ決めて分けると、あとから不公平感が噴き出します。分割の時点で、価格の根拠と将来の見通しを相続人全員が共有しておくことが、結局は近道です。
価格等調査報告書と鑑定評価書の使い分け
再建築不可の土地は、相続人どうしの主張がとりわけ割れやすい対象です。誰も正解を知らないからこそ、根拠のある数字が必要になります。話し合いの段階で判断材料として使うのであれば価格等調査報告書、調停や審判など書面としての重みが求められる場面では鑑定評価書という使い分けが可能です。いずれも、接道の状況・隣地の条件・想定される出口を調査したうえで、なぜその減価率になるのかを書面に残します。「相場では5割程度らしい」という伝聞と、調査の過程を開示した書面とでは、話し合いの場で持つ力がまるで違うと断言します。
法律・税務の線引き
最後に、私たち鑑定士の守備範囲を明確にしておきます。土地が接道義務を満たしているかを調査し、その状態が価格にどう影響するかを判断することは鑑定士の仕事です。一方、隣地との通路の取得や分筆をどのような契約で行うか、遺産分割協議書にどう書くかといった判断は法律事務にあたりますので、弁護士・司法書士にご相談ください。相続税の申告における土地の評価方法や、売却したときの譲渡所得の取扱いについては、税理士にご確認ください。
役割を分けたうえで、価格の部分だけを正確に押さえる。再建築不可のように情報が少なく不安が大きい対象ほど、この進め方が確実です。
まとめ
再建築不可は土地の価値がゼロになる宣告ではなく、建て替えという選択肢が塞がっている状態です。減価がどの程度になるかは、その状態を解消できる見込みがあるかどうかで大きく変わります。
要点を振り返ります。
- 接道義務は、敷地が道路に2メートル以上接することを求める建築基準法第43条第1項の要件であり、これを満たさない土地には新たな建築確認が下りない
- 前面道路が4メートル未満でも、二項道路(同法第42条第2項)の指定があればセットバックを条件に建て替えできる。旗竿地の可否は通路の幅で分かれる
- 減価の本体は「建てられないこと」そのものではなく、融資がつきにくく買い手の層が狭まることにある
- 「相場の5割から7割」は全国をならした感覚値であり、隣地の状況や出口の有無を見ずに自分の土地へ当てはめるべきではない。相続税評価では通路に相当する部分の価額の控除に100分の40という上限があるが(財産評価基本通達20-3)、市場価格にそのような上限はない
- もっとも現実的な出口は隣地との一体利用であり、併合を目的とする取引は限定価格として正常価格とは別に把握できる
- 建築基準法第43条第2項の認定・許可は救済制度だが、許可は建築計画ごとの判断であり、恒久的な建築可能性を保証するものではない
再建築不可と言われた実家をどう分ければよいか迷っている相続人の方、依頼者の遺産に接道条件の悪い土地が含まれていてお困りの弁護士・税理士・司法書士の先生は、公図と現地の状況をお手元にご相談ください。接道の状況・隣地の条件・想定される出口を調査したうえで、この土地をいくらと考えるべきかを根拠とともに整理してお伝えします。初回無料相談をご利用ください。
免責事項
本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。
FREE CONSULTATION
鑑定が必要かどうかのご相談だけでも歓迎です
記事に関連するお悩みについて、不動産鑑定士に直接ご相談いただけます。
関連記事

賃貸アパートの相続評価はなぜ更地と違うのか──家賃から価格を導く「収益還元法」の仕組み
賃貸アパートの価格は土地と建物の足し算では決まらず、家賃から生まれる純収益を利回りで割り戻して導きます。満室想定の収入をそのまま使う計算がなぜ成り立たないのかを、想定ケースの数値で不動産鑑定士が整理します。
読了 約14分

タワーマンションの相続──2024年の相続税評価見直しと「時価」の考え方
タワーマンションは相続税評価と市場価格の乖離が特に大きい資産でした。2024年1月から新しい算定ルールが導入されましたが、遺産分割で使うべき時価とは依然として別物です。評価の考え方を不動産鑑定士が整理します。
読了 約4分

農地・山林を相続したら──宅地とは違う「評価の考え方」を知る
実家の相続に田畑や山林が含まれていた──宅地と同じ感覚で価格を考えると、大きく見誤ります。農地法の制約、市場の薄さ、転用の可能性という3つの視点から、農地・山林の評価の考え方を不動産鑑定士が解説します。
読了 約4分