登記簿の地積どおりには売れない──私道持分とセットバックがある実家の相続評価
相続した実家に私道持分があり、前面道路にセットバックが必要。登記簿の地積を全部足して単価を掛けると、代償金は数百万円ずれます。有効宅地部分という考え方、通行・掘削承諾書が価格に与える影響、相続税評価の70パーセント控除との違いを不動産鑑定士が整理します。

相続した実家の登記事項証明書を取り寄せたら、土地が2筆あった。1筆は自宅の敷地、もう1筆は「地目 公衆用道路」と書かれた見慣れない土地の、6分の1という持分。前面の道は、車がすれ違えないほど狭い。こうした登記の内容を前にして、これは財産なのか、それとも面倒の種なのかと戸惑われる方は少なくありません。
都市部の住宅地では、こうした土地はごく普通に存在します。そして遺産分割の場面では、この「見慣れない部分」が金額を大きく動かします。登記簿の地積を全部足して、近所の売り出し価格の単価を掛ける。一見もっともらしいこの計算が、数百万円単位のずれを生むからです。反対に、私道持分をまったく無視して宅地部分だけで話を進めると、今度は別の落とし穴が待っています。
私たち鑑定士は、こうした土地を「登記された面積のうち実際に建物を建てられるのはどこまでか」「道の部分は誰の権利で、何ができるのか」という二つの問いから組み立てます。この記事では、セットバックと私道持分を分けて整理したうえで、それぞれが価格にどう効くのか、遺産分割でどこを確認すべきかを説明します。
登記簿の地積が示していないもの
有効宅地部分という考え方
土地の価格は「単価×面積」で決まると思われがちですが、正確には「単価×使える面積」です。登記事項証明書の地積のうち、建物を建てたり庭として使ったりできる部分を、私たちは有効宅地部分と呼びます。
たとえば地積120平方メートルでも、そのうち3平方メートルが将来道路として提供すべき部分であれば、建物の配置に使えるのは117平方メートルです。建ぺい率・容積率の基礎となる敷地面積からも、この部分は外れます。登記簿の地積はこうした区別を示しません。地積はあくまで筆の面積であって、使える面積ではないからです。この差を確認しないまま価格を出すと、代償金も遺留分の計算も、すべてずれたまま進みます。
私道持分は「土地」だが「宅地」ではない
もう一つの論点が私道持分です。行き止まりの道や数軒で共同利用する通路が、公道ではなく個人の所有地であることは珍しくありません。所有形態には、道全体を共有持分で持ち合う形(共有型)と、細かく分筆して1筆ずつ所有する形(分筆型)があります。
いずれの場合も、その部分に建物は建てられません。道として使い続けることが前提だからです。したがって私道持分の価格は、隣接する宅地と同じ単価にはなりません。かといってゼロでもありません。持分があることで通行と工事が確保され、宅地の価値が支えられているからです。私道持分は独立して売れる資産というより、宅地に付随する「必要な部品」として価格に反映される、と考えてください。
先に確認すべき三つのこと
私道とセットバックが絡む土地では、次の三つを確認しない限り価格の前提が固まりません。
- 前面の道が建築基準法上のどの道路にあたるか(二項道路か、位置指定道路か、そもそも道路でないか)
- セットバックが必要な場合、どの線から何メートル後退するのか、すでに後退済みの部分はあるか
- 私道について持分があるか、ない場合に通行・掘削の承諾が取れているか
インターネットの地図や登記情報では、ここまでは分かりません。役所の建築指導課で道路種別を照会し、公図と現況を突き合わせる作業が必要です。
セットバックは価格にどう効くか
二項道路とセットバックの仕組み
建築基準法は、建築物の敷地は道路に2メートル以上接しなければならないと定めています(建築基準法第43条第1項)。ここでいう道路は原則として幅員4メートル以上ですが、法律の施行時にすでに建物が立ち並んでいた幅員4メートル未満の道で特定行政庁が指定したものは、道路とみなされます(同法第42条第2項)。これが二項道路です。
二項道路では、道路の中心線から水平距離2メートルの線が道路境界線とみなされ、建て替えの際にはその線まで敷地を後退させなければなりません。これがセットバックです。反対側が川や崖地の場合は、そちら側からの一方後退で4メートルを確保する扱いになります。後退した部分には、建物はもちろん塀や門も設けられません。所有権が国や市区町村に移るわけではありませんが、事実上、道路として使われ続ける土地になります。
減るのは面積だけではない
セットバックの影響を「後退部分の面積が減るだけ」と理解すると、価格を見誤ります。第一に、敷地面積が減ることで建てられる建物の延べ面積が減ります。容積率200パーセントの地域で3平方メートル後退すれば、建てられる床が6平方メートル減る計算です。第二に、既存のブロック塀の撤去や道路面との高さ合わせといった整備費用が発生します。第三に、買い手がこの手間を嫌い、価格交渉の材料として持ち出します。市場では面積按分以上の値引きにつながることがあります。
減価の本体が需要側にあるという構造は、建てられない土地は半値なのかで述べた再建築不可の場合と共通しています。
相続税評価の70パーセント控除と、遺産分割で使う価格は別物
財産評価基本通達は、二項道路に面し将来の建替え時に道路敷きとして提供しなければならない部分を有する宅地について、その部分がないものとした場合の価額から、後退部分の地積を宅地の総地積で割った割合に0.7を乗じた分を控除して評価すると定めています(財産評価基本通達24-6)。後退部分を通常の評価額の3割で評価する、と言い換えることもできます。
この0.7は課税の公平を保つための一律の基準であり、市場がそのとおりに動くわけではありません。後退部分がすでに整備済みで追加費用のかからない土地もあれば、擁壁のやり直しに数百万円かかる土地もあります。相続税評価額をそのまま遺産分割の基準にすれば、実勢とずれた分け方になりかねません。なお、相続税の申告における具体的な評価方法は税理士にご確認ください。
私道持分の有無で何が変わるか
持分がない土地は、売るときに止まる
私道持分がない土地は、住み続けている間は何も起きません。問題が表面化するのは、売るときと建て替えるときです。
買い手が住宅ローンを使う場合、金融機関は前面道路の権利関係を確認します。持分も通行承諾もない土地は担保評価が下がり、融資そのものが難しくなることもあります。買い手が現金購入層に限られれば、競争が働かず価格は下がります。また、上下水道やガスの引込みのための掘削工事は、所有者の承諾なしに着工できないのが実務の通例です。承諾が得られなければ、建て替えの計画そのものが止まります。
通行・掘削承諾書という「見えない資産」
そこで重要になるのが通行・掘削承諾書です。私道の所有者から、通行することとライフライン工事のために掘削することについて、あらかじめ書面で承諾を得ておくもので、将来の承継人にも効力が及ぶ旨を明記した形が一般的です。
この書面の有無は価格に直結します。整っていれば買い手は通常の融資を使え、建て替えの見通しも立ちます。整っていなければ、買い手はそのリスクを価格から差し引きます。登記簿にも固定資産税の課税明細にも現れませんが、実質的には資産価値の一部です。遺産分割の場では、権利証と一緒にこの書面が保管されていないかを必ず確認してください。
民法改正で変わったこと、変わらないこと
令和3年の民法改正により、他の土地に設備を設置しなければ電気・ガス・水道などの継続的給付を受けられない土地の所有者は、必要な範囲で他の土地に設備を設置できることが明文化されました(民法第213条の2。令和5年4月1日施行)。行使にあたっては目的・場所・方法を事前に通知する必要があり、損害には償金を支払います。この改正で法的な見通しは以前より立てやすくなり、給水装置工事の承諾書提出を原則不要とする運用に改めた自治体もあります。
もっとも、法律上の権利があることと、工事が円滑に進むことは別です。紛争になれば工期は延び、償金の額でもめることもあります。市場の買い手はその手間を織り込んで価格を判断します。私たち鑑定士も、改正で減価がなくなったとは考えず、承諾書の有無による差を縮める方向の事情として扱います。承諾書の文言や個別の紛争の見通しについては、弁護士にご確認ください。
想定されるケース:同じ登記地積でも代償金はこう変わる
設定
ここから先は、実在の事案ではなく想定されるケースです。数値は仕組みを説明するための仮定であり、個別の土地の評価を保証するものではありません。
被相続人が残した実家は登記上2筆です。1筆目は宅地120平方メートル、間口8メートル。2筆目は地目が公衆用道路の土地150平方メートルで、その6分の1(25平方メートル相当)の持分です。前面の道はこの私道で、幅員3.2メートルの二項道路。中心線から2メートルまで後退するため、後退幅0.4メートルに間口8メートルを掛けた3.2平方メートルがセットバック部分です。近隣の標準的な宅地の実勢単価は1平方メートルあたり35万円とします。相続人は長男と長女の2人で、長男が実家を取得し、長女に代償金を支払う代償分割を検討しています。
三つの組み立て方で、金額はどう動くか
同じ土地について、価格の組み立て方を変えると次のようになります。
| 価格の組み立て方 | 土地の評価額 | 長女の代償金 |
|---|---|---|
| 登記地積を合算して単価を掛ける | 5,075万円 | 2,538万円 |
| 宅地部分だけを見て後退を考慮しない | 4,200万円 | 2,100万円 |
| 有効宅地・後退部分・私道持分を分ける | 約4,130万円 | 約2,065万円 |
一番上は、宅地120平方メートルと私道持分25平方メートル相当を足した145平方メートルに35万円を掛けたものです。私道部分に宅地と同じ単価を当てる、もっともよくある誤りです。真ん中は宅地部分だけを見たもので、後退部分3.2平方メートルが宅地並みに評価されたままです。一番下は、有効宅地116.8平方メートルを35万円で評価し、後退部分を大幅に減価し、私道持分を宅地に付随する部分として控えめに織り込んだ結果です。上の二つとの開きはそれぞれ約473万円、約35万円。そのまま兄妹の受け取る金額の差になります。
承諾書がなければ、ここからさらに動く
いま見た数字は、通行・掘削の承諾が問題なく得られる前提のものです。承諾が取れない事情があれば、買い手の融資が付きにくくなり建て替えの見通しも立ちませんから、有効宅地部分そのものに追加の減価が及びます。程度は事情によりますが、1割前後の差が生じることも十分にありえます。4,130万円が3,700万円台まで下がれば、代償金は200万円以上動きます。
私たち鑑定士は、私道持分の有無という登記上の形式だけを見ません。他の共有者は何名でその所在は判明しているか、過去に掘削の実績はあるか、承諾書が承継人にも及ぶ内容かを調べたうえで、減価の程度を判断します。代償金の決まり方については代償金の金額は評価額で決まるもあわせてご覧ください。
遺産分割で私道とセットバックをどう扱うか
私道持分を分け忘れると、あとで詰む
実務でしばしば起きるのが、遺産分割協議書に宅地1筆だけを書いて、私道持分を書き落とすという事故です。協議書に記載がなければ、その持分は未分割のまま残ります。相続登記も入れられません。
厄介なのは、それが判明するのが多くの場合、その家を売ろうとしたときだという点です。買い手側の司法書士が権利関係を精査した段階で持分の欠落が見つかり、あらためて相続人全員の署名押印が必要になります。当初の相続から数年が経ち、相続人の一人が亡くなって関係者が増えていることもあります。財産目録を作る段階で公図を広げ、前面道路の所有者を確認しておく。これが最も確実な予防策です。
価格等調査報告書と鑑定評価書の使い分け
私道とセットバックが絡む土地は、相続人どうしの主張が割れやすい対象です。「道の分も面積があるのだから財産だ」という主張と「使えない土地に値段はつかない」という主張は、どちらも一面では正しく、どちらも正確ではありません。
話し合いの段階で判断材料として使うのであれば価格等調査報告書、調停や審判など書面としての重みが求められる場面では鑑定評価書という使い分けが可能です(両者の違いはいわゆる「簡易鑑定」の正体で整理しています)。いずれも道路種別・後退線の位置・私道の権利関係・承諾書の有無を調査したうえで、なぜその金額になるのかを書面に残します。役所の照会結果と現地の実測に基づいた書面と、「私道だから安いらしい」という伝聞とでは、話し合いの場で持つ力がまるで違うと断言します。
私たち鑑定士の守備範囲
前面道路の種別を調査し、後退線の位置を確認し、私道の権利関係が価格にどう影響するかを判断することは鑑定士の仕事です。一方、通行・掘削承諾書の文言、承諾が得られないときの対応、遺産分割協議書への私道持分の記載といった判断は法律事務にあたりますので、弁護士・司法書士にご相談ください。相続税の申告における私道やセットバック部分の評価方法、売却したときの譲渡所得の取扱いについては、税理士にご確認ください。
まとめ
私道持分とセットバックは、登記簿の地積に現れないところで価格を動かします。面積が同じでも、使える面積と権利関係が違えば、実勢価格は別の数字になります。
要点を振り返ります。
- 価格を決めるのは登記地積ではなく有効宅地部分であり、セットバックが必要な部分は敷地面積からも外れる
- 二項道路(建築基準法第42条第2項)では道路の中心線から2メートルの線まで後退が必要で、後退部分には建物も塀も設けられない。影響は面積の減少だけでなく、建てられる床の減少・整備費用・買い手の敬遠という形でも価格に及ぶ
- 相続税評価には後退部分を通常の評価額の3割で評価する定めがあるが(財産評価基本通達24-6)、市場価格がその割合に従うわけではない
- 私道持分は独立した宅地ではなく、宅地に付随して価値を支える部分として評価する。宅地と同じ単価を掛けるのは典型的な誤り
- 通行・掘削承諾書の有無は融資の可否を通じて価格に直結する。民法第213条の2(令和5年4月1日施行)で設備設置権が明文化されたが、承諾が整っている土地との差が消えたわけではない
- 遺産分割協議書への私道持分の記載漏れは、売却の段階で判明して手続きが止まる典型的な事故である
前面の道が狭い実家をどう分ければよいか迷っている相続人の方、依頼者の遺産に私道持分や後退を要する土地が含まれていてお困りの弁護士・税理士・司法書士の先生は、登記事項証明書と公図をお手元にご相談ください。道路種別・後退線の位置・私道の権利関係を調査したうえで、この土地をいくらと考えるべきかを根拠とともに整理してお伝えします。初回無料相談をご利用ください。
免責事項
本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。
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