土地と建物の内訳で譲渡所得税が289万円変わる──相続不動産の配分の決め方と優先順位
遺産分割では土地と建物をあわせた一つの価格で足りますが、売却や賃貸継続に進むと内訳が要ります。想定ケースでは内訳の置き方だけで譲渡所得税に289万円の差が生じました。内訳が効いてくる場面と、契約書・消費税額・固定資産税評価額・鑑定評価という4つの決め方の優先順位を整理します。

「実家の価格は4,000万円です」。私たちがそうお伝えすると、ほとんどの方はその一つの数字で納得されます。ところが数か月後、売却の段になって税理士から「土地と建物の内訳を教えてください」と聞かれ、答えに詰まる。相続のご相談で繰り返し起きている場面です。
遺産分割の話し合いでは、実家は「土地と建物をあわせていくら」で足ります。誰が取得し、いくらの代償金を払うかを決めるのに、内訳は要りません。ところが税務の世界に入った途端、土地と建物は別の資産になります。建物だけが減価償却の対象になり、建物だけに消費税が課され、売ったときの取得費も別々に計算されるからです。
結論から申し上げます。**一つの不動産には、場面ごとに違う内訳が並存します。**そして置き方次第で、納める税額は数百万円単位で動きます。どの場面でどの内訳が使われるのか、分からないときにどう決めるのか。私たち鑑定士の考え方も含めて整理します。なお、具体的な税額計算や個別事案への当てはめは税理士にご確認ください。
遺産分割は「一体でいくら」、税務は「土地いくら・建物いくら」
鑑定評価は一体の価格を求めてから配分する
戸建てやアパートのように土地と建物が一体で使われている不動産は、市場でも一体で取引されます。買い手は「この土地にこの建物が建っている状態」に対して価格を払うのであって、土地と建物を別々に査定して足し算しているわけではありません。
私たちが求めるのも、まずその一体としての価格です。そのうえで、内訳が必要な場面では一体価格を土地と建物に配分します。配分は評価の結論ではなく、結論を分解する作業です。
相続税評価は最初から土地と建物が別物
一方、相続税の申告で使う評価(財産評価基本通達による評価)は発想が逆です。土地は路線価に地積を乗じて各種補正を行い、建物は固定資産税評価額をそのまま用いる。最初から別々に積み上げるので、内訳は自動的に決まります。
注意していただきたいのは、この内訳が市場での価値割合を表しているとは限らない点です。建物の固定資産税評価額は再建築価格を基礎に経年減点補正を行ったもので、市場価格とは算定の土台が違います。
二つの内訳は一致しないし、一致させる必要もない
遺産分割で使った一体価格と、相続税申告で使った積み上げ額は通常一致しません。後述する譲渡所得の計算で使う内訳は、そのどちらとも別に決まります。
「数字が違うのはおかしい」とご不安になる方がいらっしゃいますが、目的が違えば求める価格の定義も違うのですから、違って当然です。不動産に複数の価格が並び立つ理由は不動産には「4つの価格」があるでも整理しています。
内訳が効いてくる4つの場面
売ったとき──譲渡所得の取得費
相続した不動産を売れば、譲渡所得の申告が必要です。譲渡所得は「譲渡価額から取得費と譲渡費用を差し引いた額」ですが、この取得費の計算で土地と建物の扱いが分かれます。
土地は買ったときの価額がそのまま取得費になります。対して建物は、保有期間中の減価に相当する額を差し引かなければなりません。非業務用の建物であれば、取得価額に0.9を乗じ、耐用年数を1.5倍した年数に対応する償却率と経過年数を掛けた額が減価償却費相当額となり、これを取得価額から控除します(所得税法第38条第2項、同法施行令第85条)。木造の償却率は0.031、鉄筋コンクリート造は0.015です。ただし減価償却費相当額は取得価額の95パーセントが限度とされています。
**つまり同じ総額でも、建物に多く配分するほど取得費は目減りし、譲渡所得は膨らみます。**築古の実家ほどこの効果が大きく出ます。
貸し続けるとき──減価償却費
相続したアパートや貸家をそのまま賃貸し続ける場合は、毎年の不動産所得で減価償却費を経費に計上します。償却できるのは建物と附属設備だけで、土地は償却できません。
ここで見落とされやすいのが、相続の場合は被相続人の取得価額・耐用年数・未償却残高をそのまま引き継ぐという点です(所得税法施行令第126条第2項)。相続税評価額が新たな取得価額になるわけではなく、中古資産の簡便法による耐用年数の見積りも使えません。親が買ったときの内訳が、何十年も経ってから相続人の申告に効いてくるのです。
売主が課税事業者のとき──消費税
土地の譲渡は非課税、建物の譲渡は課税。これが消費税の基本です。相続人が免税事業者であれば関係ありませんが、被相続人が不動産賃貸業を営む課税事業者であった場合や、法人が保有していた不動産では、内訳がそのまま納税額に直結します。
そして対価の額が合理的に区分されていないときは、譲渡時における土地と建物それぞれの価額の比によって按分する、と定められています(消費税法施行令第45条第3項)。契約書に内訳を書かないという選択は、内訳を決めずに済ませる方法ではありません。
遺産分割そのもの──分属と居住権
内訳が遺産分割の中身に影響する場面もあります。たとえば土地を長男、建物を次男がそれぞれ取得する「分属」を選べば、両者の間に土地の利用関係(多くは使用貸借。無償で物を借りる契約)が生じ、将来の売却で足並みをそろえる必要が出てきます。配偶者居住権を設定する場合も、建物と敷地の利用権をそれぞれ評価するため、土地と建物を分けて考えることになります。
いずれも法律上の効果を伴う選択ですので、採否の判断は弁護士にご確認ください。
想定されるケース──内訳の置き方で譲渡所得税が289万円変わる
前提を置きます
実在の事案ではありません。被相続人が35年前に一括6,000万円で購入した木造住宅を、相続人が5,000万円で売却したとします。譲渡費用は200万円。売買契約書は残っていましたが、土地と建物の内訳の記載はありませんでした。税率は長期譲渡に該当するものとして20.315パーセント(所得税・復興特別所得税・住民税の合計)とします。
内訳の置き方を二通り比べます。内訳Aは建物3,000万円・土地3,000万円。内訳Bは建物1,500万円・土地4,500万円です。
取得費と税額を並べる
| 項目 | 内訳A(建物3,000万円) | 内訳B(建物1,500万円) |
|---|---|---|
| 建物の減価償却費相当額 | 2,850万円(95パーセント限度) | 1,425万円(95パーセント限度) |
| 建物の取得費 | 150万円 | 75万円 |
| 土地の取得費 | 3,000万円 | 4,500万円 |
| 取得費合計 | 3,150万円 | 4,575万円 |
| 譲渡所得 | 1,650万円 | 225万円 |
| 税額(20.315パーセント) | 約335万円 | 約46万円 |
木造の非業務用償却率0.031に経過35年を乗じると1を超えるため、いずれも95パーセントの限度が働き、建物取得費は取得価額の5パーセントしか残りません。
何が起きたのか
差額は約289万円です。総額6,000万円という前提は同じで、動かしたのは内訳だけ。建物に寄せた1,500万円が、95パーセント償却によってほぼ丸ごと取得費から消えたからです。
だからといって「土地に多く寄せればよい」という話ではありません。合理性のない配分は否認の対象になります。申し上げたいのは、内訳が税額を左右する変数である以上、根拠を持って決めるべきだということです。なお、被相続人居住用家屋等の3,000万円特別控除(租税特別措置法第35条第3項)などの特例が使える場合は税額が大きく変わります。適用の可否と期限は「相続から3年」では間に合わないをご覧のうえ、必ず税理士にご確認ください。
内訳はどう決めるのか──4つの方法と優先順位
通達が示す順序
租税特別措置法関係通達35の2-9は、土地等を建物等と一の契約により取得した場合の土地等の取得価額について、次の順序で判断するとしています。第一に、契約において区分されており、その価額が取得時の価額としておおむね適正であれば、契約の価額による。第二に、契約で区分されていなくても、売主の帳簿書類等で各価額が確認でき、それが適正であればその価額による。第三に、いずれにもより難いときは、取得時における価額の比で按分する。
この通達自体は特定の特別控除の適用場面を対象としたものですが、一括取得した土地建物の取得価額を区分する考え方として実務で広く参照されています。契約書の記載が最優先で、按分は最後の手段だという構造を押さえてください。
実務で使われる4つの方法
| 方法 | 使える場面 | 留意点 |
|---|---|---|
| 契約書の区分記載 | 記載があり金額が適正 | 実態とかけ離れた記載は否認の余地 |
| 消費税額からの逆算 | 契約書に消費税額の記載がある | 売主が課税事業者の取引に限られる |
| 固定資産税評価額の比 | 内訳が不明な多くの場面 | 土地と建物で評価の考え方が異なる |
| 鑑定評価による配分 | 上記で合理性が保てない場面 | 費用と期間がかかる |
消費税額からの逆算は見落とされがちですが、有効な手がかりです。契約書に消費税額の記載があれば、当時の税率で割り戻して建物の本体価額を復元できます。土地は非課税ですから、逆算で出てくるのは建物の価額だけです。
固定資産税評価額の比が万能ではない理由
内訳が不明な場面でもっとも広く使われているのが、固定資産税評価額の比による按分です。公的な数字で第三者が検証でき、簡便だからです。
ただし、この方法が合理性を欠く場面もあります。土地の固定資産税評価額は地価公示価格の7割程度を目安に付されるのに対し、建物は再建築価格から経年減点補正を行って算定されます。土台の異なる二つの数字を比に使っているのですから、たとえば都心の高額な土地に築古の建物が載っているようなケースでは、市場での価値割合から離れることがあります。築古建物の見方は築40年の実家、建物の価値は本当にゼロなのかでも触れています。
私たち鑑定士が配分をどう考えるか
土地は取引事例、建物は原価法で確かめる
配分を求めるとき、私たちは土地と建物を独立に検討します。土地は近隣の取引事例から更地としての価格を求めます。建物は、現時点で同じものを建てるといくらかかるか(再調達原価)を見積もり、経過年数や維持管理の状態に応じた減価を行います。原価法(Cost Approach)と呼ばれる手法です。
そのうえで、一体としての価格と、土地・建物を積み上げた額との関係を検証します。両者が食い違うときは原因を突き止めます。建物が土地の最有効使用に合っていない、間取りが市場の需要と合っていない、といった事情が一体価格を押し下げていることがあるからです。
配分の合理性は「説明できるか」で決まる
配分に唯一の正解はありません。しかし、根拠を示せる配分と示せない配分の差は決定的です。どの取引事例を使ったのか、建物の減価をどう見たのか、なぜその比率になったのか。ここを文書で説明できる状態にしておけば、税務署からの照会にも、取引の相手方との交渉にも耐えられます。
配分だけが目的なら、価格等調査報告書(不動産鑑定評価基準に則らない方法による調査結果をまとめた成果物)で足りることが多くあります。税務上の争いが予想される場面や、裁判所に提出する資料として使う場面では、鑑定評価書(同基準に則って作成される正式な成果物)が適します。
まとめ
土地と建物の内訳は、遺産分割では要らないのに、税務では避けて通れません。そして内訳の置き方は、納税額を動かす実質的な変数です。要点を振り返ります。
- 遺産分割は一体の価格で足りるが、譲渡所得・減価償却・消費税では土地と建物を分ける必要がある
- 相続税評価は土地と建物を別々に積み上げるため、その内訳が市場での価値割合と一致するとは限らない
- 建物の取得費は減価償却費相当額を控除するため、建物に寄せるほど譲渡所得が膨らむ(所得税法施行令第85条)
- 想定ケースでは、総額6,000万円の内訳を建物3,000万円と1,500万円で置き換えるだけで、譲渡所得税に約289万円の差が生じた
- 賃貸を続ける場合、被相続人の取得価額・耐用年数・未償却残高を引き継ぐ(所得税法施行令第126条第2項)
- 内訳の決め方は契約書の区分記載が最優先で、按分は最後の手段(租税特別措置法関係通達35の2-9)
- 固定資産税評価額の比は簡便だが、土地と建物で算定の土台が異なるため合理性を欠く場面がある
実家や収益物件を相続して売却・賃貸継続をお考えの方、そして依頼者の譲渡所得や減価償却を扱われる税理士の先生にとって、内訳は後から取り繕える論点ではありません。親が買ったときの契約書が見つからない、固定資産税評価額の比では実態と合わない。そう感じられた時点が、配分を根拠のある形で固めるタイミングです。
相続した不動産の評価でお悩みの相続人の方、依頼者の遺産分割を支援される士業の先生は、初回無料相談をご利用ください。ご相談はお問い合わせから、費用の目安は料金のご案内をご覧ください。
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