評価の実務

事故物件になった実家の相続評価──心理的瑕疵の減価は「何割」では決まらない

事故物件になった実家の相続評価は、人が亡くなった事実だけで一律に何割も下がるわけではありません。国土交通省の告知ガイドライン、特殊清掃や周知性、分割時点までの時間経過を手がかりに、心理的瑕疵の減価の考え方と代償金への影響を不動産鑑定士が整理します。

著者:吉田 健人·読了 約13分
事故物件になった実家の相続評価──心理的瑕疵の減価は「何割」では決まらない

親が実家で亡くなり、発見までに時間がかかってしまった。そうした事情を抱えた実家の相続で、「事故物件になったのだから評価は下がるはずだ」「いや、住むなら関係ない」と相続人の意見が分かれることがあります。事故物件の相続評価は、遺産分割の代償金を直接左右するだけに、感情も絡んで話がこじれやすい論点です。

先に結論をお伝えします。人が亡くなったという事実だけで、実家の価格が一律に何割下がるわけではありません。価格に影響するかどうかは、亡くなり方、特殊清掃の有無、周囲への知られ方、そして分割の時点までの時間経過によって大きく変わります。インターネットで見かける「事故物件は3割引き」といった数字を、そのまま自分の実家に当てはめるのは危険です。

私たち鑑定士は、心理的瑕疵(物件そのものに物理的な欠陥はないものの、過去の出来事が買い手や借り手に心理的な抵抗感を与える事情)を、「その事情が市場でどれだけ買い手を減らすか」という観点から価格に織り込みます。この記事では、国土交通省のガイドラインを手がかりに減価の考え方を整理し、遺産分割で使う価格と相続税評価の違い、想定されるケースでの代償金への影響までを説明します。

事故物件の相続評価で最初に確認すること

「事故物件」に法律上の定義はない

まず押さえておきたいのは、「事故物件」という言葉に法律上の定義がないことです。一般には、自死や事件、発見が遅れた孤独死などがあった物件を指して使われますが、どこからが事故物件なのかを定めた条文はありません。

実務上の目安になっているのが、国土交通省が2021年10月に公表した「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」です。これは不動産会社が取引の相手方に何を告げるべきかを整理したもので、価格の決め方を定めたものではありません。ただ、告知が必要な事情は買い手の判断に影響しうる事情であり、価格を考えるうえでの出発点になります。

自然死・日常の事故は原則として告知の対象外

ガイドラインでは、老衰や病気による自然死、自宅の階段からの転落や入浴中の溺死といった日常生活の中での不慮の事故による死は、原則として告知しなくてよいとされています。住宅で人が亡くなることは当然に想定されるからです。

つまり、親が自宅で病気により亡くなり、すぐに家族が気づいたというケースは、多くの場合「事故物件」には当たりません。この場合に心理的瑕疵を理由とした大きな減価を主張しても、根拠を示すのは困難です。

告知が必要になる場面

一方で、自死や他殺、また自然死であっても発見が遅れて特殊清掃(体液の除去や消臭など、通常の清掃では対応できない原状回復作業)や大規模なリフォームが行われた場合は、告知の対象になります。賃貸借では概ね3年を経過すれば原則として告知不要とされていますが、売買にはこの期間の目安が設けられていません。事件性や周知性が特に高い事案では、年数を経ても告知が必要とされることがあります。

実家を売却して分ける換価分割や、将来の売却を前提に代償金を決める場面では、この「売買には期間の目安がない」という点が重要になります。

心理的瑕疵の減価はどう決まるか

減価の本体は「買い手の層が細ること」

心理的瑕疵が価格を下げる理由は、建物が傷んでいるからではありません。その事情を知ったうえで購入を検討する人が減り、競争が働かなくなるからです。気にしない買い手は一定数いますが、住宅ローンを組んで長く住む一般の購入者ほど敬遠する傾向があります。結果として、買い手が投資目的の事業者などに限られ、価格が下がります。

不動産鑑定評価基準は、価格に影響する要因を一般的要因・地域要因・個別的要因に分けて分析するよう求めています(不動産鑑定評価基準 総論第3章)。心理的瑕疵は、この個別的要因の一つとして、市場参加者の購入意欲にどの程度影響するかを検討する対象になります。

減価の程度を左右する4つの要素

同じ「実家で人が亡くなった」でも、減価の程度は次のような要素で変わります。

要素減価が小さくなる方向減価が大きくなる方向
亡くなり方病死・老衰自死・事件
発見と清掃早期発見・通常清掃発見遅れ・特殊清掃
周知性近隣にほぼ知られていない報道・ネット掲載がある
物件の種類土地価格の比重が大きい戸建て室内が価値の中心のマンション

たとえば地価の高い地域の戸建てであれば、建物を取り壊して土地として売却するという選択肢があり、減価は相対的に小さくなりやすいといわれます。反対に、マンションの一室は室内そのものが取引の対象ですから、心理的な抵抗感が価格に直結します。

時間の経過で減価は薄れていく

心理的瑕疵による減価は、時間とともに小さくなるのが一般的です。近隣の記憶が薄れ、居住者が入れ替わり、建物が建て替えられれば、事情を気にする買い手は減っていきます。

ここで遺産分割の基準時が関わってきます。遺産分割で用いる不動産の価格は、原則として分割時の価格です。相続開始から分割までに2年、3年とかかることは珍しくありませんから、相続開始直後の感覚で「大幅に下がる」と決めつけるのではなく、分割時点での市場の受け止め方を評価する必要があります。なお遺留分の算定は相続開始時が基準となるため、同じ実家でも時点によって減価の程度が異なりえます。時点の考え方は相続開始時にさかのぼって評価できる理由で詳しく説明しています。

事故物件の相続税評価と、遺産分割で使う価格は別物

相続税評価では原則として考慮されにくい

ご相談で多いのが、「事故物件なら相続税評価も下がるのでは」というご質問です。相続税の土地評価は路線価や固定資産税評価額に基づく画一的な方法で行われ、人が亡くなったという事情は、原則としてその計算に直接は反映されません。

財産評価の実務では、付近の土地と比べて利用価値が著しく低下している宅地について10%の評価減が認められる扱いがあります。ただし、心理的瑕疵を理由にこの評価減の適用が認められなかった国税不服審判所の裁決も報じられており、事故物件だから当然に適用できるものではありません。相続税の申告でどのような評価を採るかは、必ず税理士にご確認ください。

遺産分割は「いくらで売れるか」の世界

一方、相続人どうしで遺産を分ける場面では、課税のための評価ではなく、市場で実際に成立する価格が問題になります。心理的瑕疵が市場価格を下げているのであれば、その減価は遺産分割の価格に反映させるべきですし、分割時点で市場への影響が薄れているのであれば、大きな減価を主張する根拠は乏しくなります。

相続税評価額と時価の関係については路線価と実勢価格の乖離が大きい不動産の特徴でも整理しています。

想定されるケース:減価の見立てで代償金はこう変わる

設定

ここから先は、実在の事案ではなく想定されるケースです。数値は仕組みを説明するための仮定です。

父が一人で暮らしていた戸建ての実家で亡くなり、発見までに約2週間を要したため、特殊清掃と内装の一部撤去が行われました。相続人は長男と長女の2人です。長男が実家を取得して住み続け、長女に代償金を支払う代償分割を検討しています。事情がなければ、この実家の市場価格は土地建物で4,000万円と見込まれる地域だとします。

減価の見立てひとつで、代償金は600万円動く

前提とする減価実家の評価額長女の代償金
減価なし(住むから関係ない)4,000万円2,000万円
1割5分の減価3,400万円1,700万円
3割の減価(ネットの相場観)2,800万円1,400万円

減価をどう見るかで、長女が受け取る金額には最大600万円の開きが出ます。長男は「自分が住むのだから市場価格で払う必要はない」とは言えない一方、長女は「住むのだから減価は関係ない」と言いたくなります。ここで押さえておきたいのは、遺産分割で用いる価格は、取得する相続人の使い方ではなく、その不動産が市場でどう評価されるかで決まるという点です。長男が住み続けるとしても、いつか売却すれば告知が必要になる可能性がある以上、その事情を価格から除外する理由はありません。

「何割」を決めるのは調査の中身

このケースで1割5分なのか3割なのかを分けるのは、戸建てで土地価格の比重がどの程度か、近隣に事情が知られているか、分割時点までにどれだけ時間が経過しているかといった具体的な事実です。私たち鑑定士は、周辺の取引事例や地域の需要動向を踏まえ、心理的瑕疵がこの地域・この物件でどの程度買い手を減らすかを検討し、減価の根拠を書面に残します。

代償金の決まり方そのものについては代償金の金額は評価額で決まるもあわせてご覧ください。

孤独死があった自宅を相続・売却するときの注意点

売却するなら告知を前提に計画する

実家を売却して代金を分ける場合、仲介する不動産会社は、ガイドラインに沿って告知の要否を判断します。告知を避けて売却し、後から事情が判明すれば、契約不適合責任(引き渡した物件が契約の内容に適合しない場合に売主が負う責任。民法第562条以下)を問われるおそれがあります。売り急いで事情を伏せるより、告知を前提に売却価格と期間を見込んだほうが、相続人全員にとって確実です。

相続放棄を考える前に確認すべきこと

親が賃貸住宅で亡くなった場合には、貸主から原状回復費用や賃料の減少分を請求されることがあり、相続放棄を検討される方もいます。相続放棄は、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述する必要があります(民法第915条第1項)。請求への対応や放棄の判断は法律問題ですので、早めに弁護士にご相談ください。持ち家の実家であれば、こうした請求の心配は通常ありませんが、価格の見立てを誤ると分け方で不公平が生じます。

価格等調査報告書と鑑定評価書の使い分け

心理的瑕疵は、相続人の感情と結びつきやすく、主張が割れやすい論点です。話し合いの判断材料として使うのであれば価格等調査報告書、調停や審判で書面としての重みが必要な場面では鑑定評価書という使い分けができます。両者の違いはいわゆる「簡易鑑定」の正体で解説しています。「ネットで3割引きと書いてあった」という主張と、地域と物件を調査したうえで減価の根拠を示した書面とでは、話し合いの場での説得力がまるで違うと断言します。

まとめ

事故物件になった実家の相続評価は、「人が亡くなったから一律に何割下がる」というものではありません。亡くなり方や清掃の状況、周知性、そして分割時点までの時間経過を踏まえて、市場がその事情をどう受け止めるかで決まります。

要点を振り返ります。

  • 「事故物件」に法律上の定義はなく、国土交通省の人の死の告知に関するガイドライン(2021年10月)が実務の目安になっている
  • 自然死や日常生活の中での不慮の事故は原則として告知不要であり、心理的瑕疵による大きな減価は認められにくい
  • 自死・事件や、発見が遅れて特殊清掃が行われた場合は告知の対象となり、売買には賃貸のような「概ね3年」の目安がない
  • 減価の本体は買い手の層が細ることにあり、戸建てかマンションか、周知性、時間の経過で程度が変わる
  • 相続税評価では心理的瑕疵は原則として考慮されにくく、遺産分割で使う市場価格とは別に考える(相続税は税理士にご確認ください)
  • 遺産分割は分割時、遺留分は相続開始時の価格が基準となり、時点によって減価の程度が異なりうる

実家で起きた出来事が評価にどう影響するのか、兄弟姉妹の間で意見が分かれて困っている相続人の方、依頼者の遺産に心理的瑕疵のある不動産が含まれている弁護士・税理士・司法書士の先生は、お気軽にご相談ください。物件と地域の状況を調査したうえで、減価をどう考えるべきかを根拠とともに整理してお伝えします。初回無料相談をご利用ください。

免責事項

本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。

不動産鑑定士が相続した不動産をどう評価するか、必要になるケースや費用は遺産分割の不動産鑑定のページでまとめています。

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