相続不動産を固定資産税評価額で分けても大丈夫?──遺産分割でよくある誤解7つ
相続した不動産を固定資産税評価額で分けても大丈夫か。時価の7割が目安の課税用の数字を使うと代償金が数百万円ずれる理由と、路線価・無料査定・評価時点・共有・期限をめぐる遺産分割の誤解7つを不動産鑑定士が整理します。

「納税通知書に固定資産税評価額が書いてあるから、相続した不動産はこの金額で分ければいい」。相続手続を始めたばかりの方から、こうしたお話をよく伺います。手元にある公的な数字で、しかも無料で分かるのですから、そう考えるのは自然なことです。
先に結論をお伝えします。相続人全員が金額の意味を理解したうえで合意するなら、固定資産税評価額で分けること自体は可能です。遺産分割協議は、全員が納得すればどの評価方法を使っても有効だからです。ただし、固定資産税評価額は時価(市場で実際に売買される価格)のおおむね7割を目安に設計された課税用の数字です。そのまま使うと、不動産を取得する人と代償金を受け取る人の間で、数百万円単位の差が生じることがあります。話し合いがまとまらず調停や審判に進めば、裁判所が基準にするのは時価です。
この記事では、相続した不動産をめぐって相続人の方が陥りやすい誤解を7つ取り上げ、私たち鑑定士の立場からそれぞれを整理します。各項目の詳しい解説記事へのリンクも付けていますので、気になる項目から読み進めてください。
誤解1〜2:固定資産税評価額や路線価で分ければ公平という思い込み
誤解1:固定資産税評価額で分ければ公平になる
固定資産税評価額は、市区町村が固定資産税を課税するために3年に一度定める価格です。土地については、平成6年度の評価替えから地価公示価格の7割程度を目途に評価されています。つまり、最初から時価より低めになるように設計された数字です。
この「低め」は、全員に同じ割合で効くなら問題になりません。問題は、不動産を取得する人と、代わりに代償金(不動産を取得した相続人が他の相続人に支払う調整金)を受け取る人がいる場合です。評価額が低いほど取得者に有利、受け取る側に不利になります。
想定されるケース:兄と弟の2人が実家を相続し、兄が実家を取得して弟に代償金を払うとします。
| 使う価格 | 実家の評価額 | 弟への代償金(2分の1) |
|---|---|---|
| 時価 | 3,000万円 | 1,500万円 |
| 固定資産税評価額 | 1,700万円 | 850万円 |
| 差額 | 1,300万円 | 650万円 |
※固定資産税評価額は土地1,500万円・建物200万円と仮定した数値例です。
どちらの数字を使うかだけで、弟が受け取る金額は650万円変わります。弟がこの差を知らずに合意し、後から気づけば、兄弟関係にしこりが残りかねません。4つの価格の違いは不動産には「4つの価格」があるで詳しく解説しています。
誤解2:路線価なら国の数字だから安心
相続税路線価(国税庁が相続税・贈与税の課税のために定める道路ごとの土地の価格)は、公示価格の8割程度を目安としています。固定資産税評価額よりは時価に近いものの、やはり課税のための数字です。
しかも、路線価は「土地」だけの価格で、建物は含まれません。さらに、駅に近い人気エリアや再開発が進んだ地域では実際の取引価格が路線価を大きく上回る一方、需要が細った地方では路線価で売れないこともあります。路線価と時価の距離は、不動産ごとにまったく違うのです。どんな不動産で乖離が大きくなるかは路線価と実勢価格の乖離が大きい不動産の特徴にまとめています。
誤解3〜4:相続不動産の「時価」についてのよくある間違い
誤解3:不動産会社の無料査定の金額が時価である
不動産会社の無料査定は、「この価格なら売れそうです」という売り出し価格の提案です。売却の依頼を受けたい会社が出すものですから、他社より高めの数字が出ることもありますし、逆に早く売れる価格を示すこともあります。根拠の詳しさも会社によって大きく異なります。
相続人全員が売却して分けることに合意しているなら、複数社の査定は十分に役立ちます。しかし、ある相続人が取得して代償金を払う場面では、取得する側は低い査定を、受け取る側は高い査定を持ち出しがちです。無料査定を遺産分割でどう使えばよいかは不動産会社の無料査定、遺産分割でどこまで使えるかで解説しています。
誤解4:築40年の実家は、建物の価値がゼロ
「木造住宅は築20年を過ぎたら価値はない」とよく言われます。確かに、市場では古い木造住宅の建物部分がほとんど評価されないこともあります。しかし、それは一律の法則ではありません。
不動産鑑定評価基準では、建物の価値を、今建て直したらいくらかかるか(再調達原価)から、経過年数や修繕の状態に応じた価値の減少(減価修正)を差し引いて求めます。リフォームされて今も住める状態なら、築年数だけで価値がゼロになるわけではありません。反対に、取り壊しが前提の古家は、解体費用の分だけ土地の価値を押し下げることもあります。ちなみに固定資産税評価額でも、古い家屋の評価は再建築費の2割を下回らない仕組みになっており、「評価額がゼロ」になることはありません。詳しくは築40年の実家、建物の価値は本当にゼロなのかをご覧ください。
誤解5:評価の基準は「亡くなった日」の価格
遺産分割の評価は「分ける時点」の価格
相続というと、亡くなった日(相続開始時)の財産を分けるイメージがあります。相続税の申告も相続開始時の評価で行います。ところが、遺産分割で不動産を評価する時点は、実務上、相続開始時ではなく遺産分割時(分割の話し合いをしている現在)とするのが一般的です。
相続から分割まで数年かかり、その間に地価が上がったり下がったりすれば、どの時点で評価するかによって金額が変わります。数年前に取った査定書をそのまま使っていると、今の価格とずれている可能性があります。
遺留分と特別受益は相続開始時が基準
一方、遺留分(一定の相続人に法律上保障された最低限の取り分)の計算では、不動産は相続開始時の価格で評価します。生前贈与(特別受益)として持ち戻す不動産も、相続開始時の価格で評価するのが原則です。同じ相続でも、何のための評価かによって基準となる時点が異なります。過去の時点にさかのぼって評価できる理由は相続開始時にさかのぼって評価できる理由で説明しています。
誤解6〜7:相続不動産の分け方と期限についての誤解
誤解6:とりあえず共有にしておけば平等
話し合いがまとまらないとき、「とりあえず兄弟で共有にしておこう」という選択がされがちです。しかし共有にすると、不動産全体の売却や建替えなど大きな決定には共有者全員の同意が必要になります(民法第251条第1項)。共有者が亡くなれば持分がさらに相続され、関係者は増えていきます。
共有は問題を解決したのではなく、決定を先送りしただけです。数年後に共有物分割請求という形で、評価額をめぐる話し合いが改めて始まることも少なくありません。詳しくは相続で共有名義にするデメリットをご覧ください。
誤解7:遺産分割に期限はないから、急がなくてよい
遺産分割協議そのものには、法律上の期限はありません。しかし「放っておいてよい」わけではありません。
まず、2024年4月1日から相続登記が義務化され、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記の申請をしなければなりません。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります(不動産登記法第76条の2・第164条)。2024年3月以前に開始した相続で登記が済んでいない不動産も対象で、その場合は2027年3月31日までが期限です。
さらに、2023年4月1日施行の改正民法により、相続開始から10年を過ぎると、原則として特別受益や寄与分(生前の贈与や介護などの貢献を取り分に反映させる仕組み)を主張できなくなりました(民法第904条の3)。施行前に開始した相続にも適用され、経過措置により「相続開始から10年」と「2028年3月31日」のいずれか遅いほうが期限になります。詳しくは遺産分割に期限はないが、10年で「分け方のルール」が変わるで解説しています。手続の判断は弁護士・司法書士にご確認ください。
相続不動産の評価で誤解を避けるために
「どの価格か」を全員で共有することから始める
7つの誤解に共通するのは、「その数字が何のための価格なのか」を確認しないまま使ってしまうことです。固定資産税評価額も路線価も無料査定も、それぞれの目的では正しい数字です。問題は、目的の違う数字を遺産分割に流用することにあります。
話し合いの最初に、次の3点を相続人全員で確認しておくと、後からの行き違いを減らせます。
- 使う数字は時価か、課税用の評価額か
- いつの時点の価格か(分割時か、相続開始時か)
- 土地だけか、建物も含むか
意見が分かれたら、根拠を第三者が確認できる評価を
金額で意見が分かれた場合は、不動産鑑定士による評価が選択肢になります。不動産鑑定評価基準に基づく評価は、どの取引事例を選び、どう補正したかという過程が書面に示されるため、相続人それぞれが根拠を確認できます。
当事務所では、相続人間の話し合いの目安には価格等調査報告書(不動産鑑定評価基準に則らない、目的・範囲を限定した価格調査)、調停など第三者に示す場面では鑑定評価書、というように目的に合わせてご提案しています。費用の目安は、正式な鑑定評価書が30万円〜(マンション1室・借地権・底地・収益物件などは40万円〜)、金額の目安を知るための価格等調査報告書が15万円〜、相手方資料の検証(セカンドオピニオン)が5万円〜です(いずれも税別)。詳しくは料金のご案内をご覧ください。相続税の申告での評価方法は税理士にご確認ください。
まとめ
相続した不動産を固定資産税評価額で分けることはできますが、それは時価のおおむね7割を目安とした課税用の数字であり、取得する人と代償金を受け取る人の間で不公平が生じやすいことを理解しておく必要があります。
要点を振り返ります。
- 固定資産税評価額は時価の7割程度、路線価は8割程度が目安。どちらも課税用の数字
- 代償金で分ける場合、評価額の違いがそのまま受け取る金額の差になる(3,000万円の実家で650万円差の例)
- 無料査定は売り出し価格の提案であり、築年数だけで建物価値がゼロになるわけでもない
- 遺産分割の評価は分割時、遺留分は相続開始時が基準
- 共有は決定の先送りにすぎず、相続登記の3年・特別受益の10年という期限もある
相続手続を始めたばかりで、どの価格を使って話し合えばよいか迷っている相続人の方は、まず「その数字が何のための価格か」を確かめるところから始めてください。
相続した不動産の評価でお悩みの相続人の方、依頼者の遺産分割を支援される士業の先生は、固定資産税の課税明細書をお手元に、初回無料相談をご利用ください。お持ちの数字が時価とどの程度離れていそうか、どの資料を用意すべきかを整理してお伝えします。
免責事項
本記事は不動産鑑定評価の観点からの一般的な情報提供を目的としています。個別の税務に関する助言は税理士、法務に関する助言は弁護士など各専門家へお問い合わせください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、最新の制度・判例等により取り扱いが変わる可能性があります。
不動産鑑定士が相続した不動産をどう評価するか、必要になるケースや費用は遺産分割の不動産鑑定のページでまとめています。
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